「風子のいる店」  岩明均 講談社モーニングKC 1985〜1988年 全4巻
   アルバイトも立派な労働です 場合によっては人生の入り口かも……
 岩明均さんは『寄生獣』が有名だが、この作品もなかなか味があると思う。
 主人公は知らない人とうまく話せない高校生の女の子。人と話せるようになるために、小さな喫茶店のウエイトレスを始める。喫茶店を訪れる人、マスター、高校の友人たちとのふれあいを通して、主人公が高校を卒業するまでの変わっていく様子を淡々と描く……というところか。
 高校生の現実は1980年代と比べてずいぶん変わってきているだろうが、「子どもからおとなになるもどかしさ」みたいなものは、今と共通する部分が大きいと思う。今の高校生が読んでも十分いけると思うがどうか。
 岩明さんのマンガはリアリティがあって、心理描写もうまくできているので、派手なストーリー展開でなくても面白い。『寄生獣』はSFだが、実はこの『風子』と同じく高校生の日常が背景になっていて、作者のこだわりのようなものを感じさせる。
 私が好きなセリフは、壁に当たって落ち込んでいる駆け出しボクサーに向かって風子が言う言葉;

 「あたしの好きなロックシンガーで こんなこと言った人がいるわ……
  『自信なんていつだってけし飛びそうだ!
   ただ並より大きめの野望が……この体を支えてくれる!』」
 「野望?」
 「そう…… 希望じゃなくて野望……」
(1巻)

 この「希望じゃなくて野望」というところが私は好きだ。この言葉は本当にロックシンガーの言葉なのだろうか?
 岩明さんは『寄生獣』の後は高校生ものから変わってきているようだが、この人の葛藤の表し方はやはり学生向けのような気もするのは、私の方がこだわっているからだろうか。(2004/4/30)


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