夜間中学1回目

 あこがれの各駅停車で書いたように、夜間中学に行ってみたいと思っていた。調べてみたらすぐ近所にあったので、電話をしてみた。
 「見学をしたいのですが……」
 「いいですよ、来てください」
 「できたらボランティアもしたいのですが……」
 「ここは公立なので、それはできません」
 という会話の後 日時を約束して、まだクラブをやっている生徒もいる夕方5時すぎに行ってみた。

 授業は5時40分から8時50分まで、45分授業の4時間。途中に給食もある。昼間は普通の中学生がいる学校で、その校舎の一部を夜間用の教室として使っている。職員室や保健室は別にある。廊下には生徒さんの書いた習字や作文などが所狭しと貼られている。生徒さんの生い立ちを書いた作文には迫力がある。5クラスあったので、適当に選んで見学した。

 1時間目;日本語。今テレビドラマでやっている「電池が切れるまで」の原作を読む。ところどころ難しい言葉に傍線が引いてあって、説明しながら読み進む。生徒さんは20人くらい。年配の方が多い。先生が質問すると何人か口々に答える。やる気を感じた。言葉の説明もあまり多くはなく、さらっと読んでいく感じだった。かなり日本語が読める人が多いようだ。この教材を選ぶ先生もさすがだが、教材が重い内容だったせいか全体には静かな授業だった。(最初だったせいかこちらもかなり緊張した)

 2時間目;別のクラスで日本語。今度は若い人がかなりいる。日本語の言葉の書き取り。先生が言葉を口で言って(板書しない)生徒がひらがなか漢字で書く。今度は日本語の書き方からかなり苦労する。「そういう」を発音のまま「そーゆー」と書いたり、どういうときに濁るのかで詰まったり。普段ほとんど気づかない日本語の難しさを痛感した。今度の先生は時々こちらに振ってきて、「"なかなか"ってどういうときに使いますか」とか聞かれる。難しいよ〜。生徒さんは中国語で話していて、プリントに書いてある中国語の注釈を見ながら納得したり、生徒さん同士で説明し合っている。こちらは中国語がわからないので、どういうノリで授業が進んでいるのかもうひとつよくわからない。この授業も割と淡々と進んでいた。年配の女性が書き取りで苦労しておられて、少し教えてしまったが、よかったのだろうか……

 3時間目;また別のクラスで日本語。若い人と年配の人に分かれている感じ。こんどは日本語の文法で「○○へ○○しに○○する」というような文章をつくる練習。今度の先生は「あいている席に座ってください」と言って、生徒さんと同じように指名してきた。中国語と日本語を使い分けて教える。すごいなあ。生徒さんと日本語で会話の練習をしたときは少し緊張したが、初対面で素性もわからないこちらの言葉に、ニコニコしながら受け答えしてくれるのがうれしかった。

 日本語の難しさは、先に書いた記述と発音の違いもあるが、助詞の使い分けと用言の活用が一番大きいようだ。「見に行く」を「見るに行く」というミスが出る。塾の国語の文法で教えている用言の活用を思い出したが、ここでは別に「連用形」とか「命令形」とか「五段活用」とかいう名前を教えているわけではない。たとえば形容詞は「い形容詞」、形容動詞は「な形容詞」のように説明している。形容動詞とかいうより、この方がわかりやすいとも思う。理屈抜きで日本語になじんでいる人が学ぶ文法と、一から話せるようになりたい人が学ぶ文法は、目的が違う分教え方も異なるということだろうか。私は前者の(私自身も学んできた)日本語の文法の必要性が未だによくわからないのだが、この授業を見ていると、「もっと実用的な文法を追求するべきではないか」という気持ちが強くなった。

 4時間目;最後はパソコンの授業。昼間の中学生も使っているであろうパソコン教室で、インターネットの入門。先生が2人いたが、私が入って来るなり「手伝ってください」。この言葉を待っていた! わけでもないが、少しくらいお役に立てないと申し訳ないような気もして、お手伝いした。生徒さんは15人ほどで、パソコンには不慣れな人ばかり。YAHOOグルメで大阪の店を調べてみましょう、とかいうのでみんなワイワイ試してみる。教えるのが楽しいのは……性やなあ。生徒さんはほとんどが年配の女性で「この店はおいしいよ。前に行ったことある」とか話しかけてきたり、なごやかだった。

 終わってすぐおいとましたが、途中で訪問者の名札を返し忘れたことに気がつき、戻って名札を返すと、バッタリ先生と会った。
 「どうでした?」
 「勉強になりました。また寄せてください」
 「どうして夜間に興味があるの?」
 「…………」
 なんだか言いたいことがありすぎて、黙ってしまった。
 1回だけで何がわかるということもない。空気を吸っただけ、なのかもしれない。
 できれば何人かの人とお話ができるようになりたい。ボランティアでなくても、関わりたい。
 以前学校の同僚が語っていた「夜間中学への憧れ」が少しわかった気がした。でも自分は自分のやり方でいきたい。
(2004/5/18)

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