渡辺さんの講演を聴く

 今年の春にイラクで拘束された渡辺修孝さん(フリージャナリスト)の講演を、妻と2人で聴きに行った。
 自衛艦の展示演習に反対する集会の中の講演である。天保山ホールに予定時刻より遅れて行くと、まだ渡辺さんの講演は始まっていなかった。外でタコ焼きを食べて時間をつぶしてから、1時間きっかりの講演を聴いた。
 講演の内容についていくつか箇条書きにしておきたい。

・自衛隊からサマワの病院に保育器・吸入器などの医療器具が送られている。すべて日の丸が貼られていて気味が悪い。
 院長は「器材より医薬品がほしい」と言う。抗生物質や抗ガン剤が足りない。日本政府もCPA(イラク暫定占領当局)も医薬品を入れてこない。
 NGOの人たちが入国時に段ボール箱いっぱいの医薬品を持っていくが、すぐ使い切ってしまう。
(後で読んだ渡辺さんの本によると、給水設備についてもほとんど自衛隊の自給分くらいしかないとのこと。)

・サマワ市内の住民は「自衛隊は軍隊だからイヤだが、援助してくれるのなら軍隊もしかたない」と異口同音に言う。
 サマワの部族長に対して自衛隊が"貢ぎ物"をしているため、自衛隊に対して批判的なことが言えない可能性もある。
 テロ容疑(まちがい)でオランダ軍に襲撃された郊外の農家の人は「自衛隊はだめだ。もし自衛隊が銃口を向けてきたら戦う」と言っていた。

・武装勢力の追撃弾が市街をねらっているが、ねらっているのは主にシオニストなど占領軍よりのメディアである。このような事実では日本のメディアではほとんど報道されていない。

・自衛隊が使用している土地は6人の地主の所有だったが、そのうち1人としか契約が完了していない。契約されていない地主が毎日自衛隊を訪れているが、自衛隊はまともに応じない。
 自衛隊は地主に「あなたはこの土地を自分のものだと主張するが、実際にはこの土地で仕事をしていた農民のものである。われわれは既に農業組合に行って、彼らから土地の使用許可を取ってきた」と言った。この土地は荒れ地で、戦争前から誰も耕す人がいなかったらしい。渡辺氏はこの地主(35才)に、日本で訴訟を起こしたらどうかと勧めてみたが、日本に行ってまで訴える気はないとのことだった。

数千のイラク人がアメリカ軍によって虫けらのように殺されている。アメリカ人の車を追い越そうとしたり、アメリカ人に口答えをしただけで撃たれた人もいる。
 サマワを通ってイラクを南北に縦断する国道8号線をアメリカ軍の運搬車両がよく通るが、追い越そうとすると最後尾の武装車両が撃ってくる。アメリカ軍は「追い越されるときに襲われる」という恐怖心を持っているらしい。こういう車両に乗っているアメリカ兵は18〜19才くらいの若い人が多く、上官の言う通りにしか行動できないだろうから、命令されればそのまま撃ってしまうのだろう。(日本の自衛隊の大きな任務は、この国道の警備である。)
 一度イラク人2人の乗った車が撃たれたとき、まだ生きていた2人を車から出して道路に寝かせ、集まってきたイラク人が近づけないように銃を向け追い払い、威嚇射撃をした。イラクの警察が来たが事情聴取をしただけで、結局2人は2時間放っておかれたまま死んでしまった。
 この状況では、占領軍側の人間が殺されるのは「自業自得」である。

・同じアパートに住んでいたヨルダン人の話によると、CPAがイラク人の慰安婦を雇っている、という噂がある。
 イラク人が事務職や秘書などの就職を斡旋するといってイラク人の女性を集め、CPA内のパレスチナホテルでアメリカ兵に引き渡す。被害者は泣き寝入りするしかないので、表沙汰にならない。
 この噂の真偽はまだわからないが、毎週のようにイラク人の女性がCPA内に入っていくところまでは(このヨルダン人が)目撃している。

・4月14日にアブグレイブでイラク人に拘束された。拘束されてはじめて、本当の抵抗勢力の気持ちがわかった。
 彼らは「バース党もフセインも嫌いだ。でもアメリカはもっと嫌いだ。外国勢力は出ていくべきだ」と言っていた。


 流暢というわけではないが、だらだらせず核心をどんどん話す渡辺さんには迫力があった。こういう人が政治家になったらいいのでは。余計な修辞を入れず、また途中で質疑応答を入れたのもよかった。
 ちょうど講演が終わった頃大阪港に自衛艦が帰ってきたので、建物の中から(自衛隊からは『ベランダには出ないでほしい』と言われたとか)、シュプレヒコールをすることになった。こういうのは苦手なので、シュプレヒコールには加わらずに船を見ていた。小雨の降り始めた港に、ニュースで見たイージス艦のような「軍艦」が4隻入ってきた。ホールから出て船着き場に行ってみた。警備らしき人があちこちにいる中で、自衛艦からお客さんが下りてくる。家族連れが多い。シュプレヒコールもいいが、こういう「自衛艦に乗ってみたい人」に話をしてみられないだろうか。……という自分にもなかなかそういう勇気はないなあ。
 ホールに戻って渡辺さんの本を買い、イスを少し片づけてからホールを出た。帰りの地下鉄でも自衛隊のCDを持っている若い男の子が数人いたので、わざと聞こえるように「自衛隊の人はかわいそうだ。人を撃つ訓練をしておいて撃つなとばかり言われる。教師に教えるなと言うようなものだ。撃ちたくなるのが当たり前だろう。」などと話していたら離れていった。かわいそうだったかな? でも無邪気に自衛隊をかっこいいと思っている人には、この仕事の本当の意味を真剣に考えてみてほしいものだ。外見や日本の偏向メディアの情報にとらわれていたら、まるで100年前と同じだ。(2004/6/9)

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