甲子園の「虐待」

 20日はつれあいと天神に行って、甥っ子の誕生日祝いを買った。焼き鳥の有名な店に行こうというので薬院まで下り、店が開店するまでの時間つぶしに喫茶店に入ったら、高校野球の決勝をテレビでやっていた。
 駒大苫小牧の田中投手は前に一度見たような気がするが、この日は以前と比べて明らかに調子が悪く、かわしているように見えた。それでもスライダーのキレはさすがで、3回途中から登板して相手を1点に押さえ込んだ。早稲田実業の斎藤投手はずいぶん球が速く、力で押さえ込んでいる感じだった。どっちにしても決勝なので連投である。甲子園は盛り上がっているようだったが、私は投げている2人がかわいそうになった。どっちが勝ってもいいから早く終わればいいのに。これで肩とか肘とかこわしたらどうするんや。まだ人生長いのに。
 ……などと思いながら見ていたら、とうとう延長15回までいき、引き分け再試合になった。2人とも160球以上投げている。再試合は翌日である。少なくとも早稲田はまちがいなく同じピッチャーが投げるだろう。これは高野連による高校球児への「虐待」ではないのか。体のできあがっているプロですら中5日とかで回す時代に、まだ体のできあがっていない、壊れやすい高校生に3連投を強いるのはどういう感覚なのか。これでピッチャーが壊れたら、誰か責任をとるのか。
 翌日の試合は仕事で見ていなかったが、生徒に聞いたら早稲田が勝ったとのこと。斉藤投手は完投したらしい。よほどタフなのだろうしいいトレーニングをしてきたのだろうが、それで本当に体が無事なのかどうかもわからない。もし彼が肘か肩でも壊してメッタ打ちにあっていたら、マスコミや高校野球ファンは何と言ったのだろうか。
 本多勝一の「新版『野球とその害毒』」を読んだ記憶では、たしか高校野球で甲子園に行った投手の半分近くが肩や肘に異常をきたしているという。沖縄水産の大野投手の悲劇は有名だが、プロに行っても結局使いものにならなかった彼に対して、高野連や煽ったマスコミが「責任をとった」という話は聞かない。壊れた体は元に戻らないのだから責任のとりようもないだろうが、ならば教育の名の下にそんなスケジュールで試合を組むのは止めるべきだ。これはもはやスポーツではなく、高校生を生け贄にしたショーではないか。
 再試合の視聴率は37%だとか書いてあったが、巨人戦よりよほどテレビを見てもらえたのだから、テレビ局や新聞社は彼らにギャラを払うべきではないのか。松坂の生涯年俸は10億を超えるだろうから、もし甲子園でムリをしたことでプロになれなかったとしたら、少なくともそれくらいの保証をしてもいいだろう。あるいは新聞社で雇用して一生の生活保障をするのもいいだろう。
 いいときだけ持ち上げておいて、終わるとスッと忘れてほったらかしにするのは、オトナ相手ならとにかく子ども相手には無責任だ。高校生だからお金を払う必要がないと言って甘えているのはオトナのわがままだ。相手が体を削って投げているのを見て感動したなどと言うのなら、それに見合ったお返しをするものだ。そうでないなら、高校野球こそきちんと中6日で試合を組み、球数制限などを厳しくし、見た目がつまらなくても「勝敗より体の安全」を優先したプログラムにするべきだ。
 また高校野球をやたらとテレビや新聞で持ち上げたり、甲子園に一般客を入れて見せたりするのもよくない。アマチュアとしてのスポーツは客のためでなく自分のため、チームのためにするのだ。プロではないのだから、観客がいようがいまいが必死にプレーできなければスポーツとは言えない。逆に見せ物としてやるのなら教育の場としての学校は関わるべきではない。教育の一環としてやるなら、スポーツとしての野球に集中させてあげるべきで、要するに今のマスコミは教育の邪魔をしているだけだ。いい加減そのことに気づいたらどうか。(2006/8/22)


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