自転車で太宰府に行く

 高校入試が終わり、合格発表もすんだ。今年は22人公立を受けて2人不合格。
 塾のお祝い会で歌ったりもしたのだが、やっぱり落ちた子の方に気がいってしまう。昨年もそうだったが、今年も1人は発表の後塾に来てくれた。申し訳ないという気持ちもあったが、とにかく前向きにいってほしいので、彼女が行く私立の話とか、教師になりたいという彼女のための「元教師」のグダグダ話とかを続けた。ここでも書いたが、入試に失敗したからといって人生に失敗したわけではないのだ。失敗の痛みは我々教える側だけがイヤほど感じればいいのだ。
 他にも実家のことやら旧友の病気やら、色々重なってどうもモヤモヤしていたので、久しぶりに自転車で遠乗りに出かけた。気晴らしには昔からこれだ。中学生の頃は自分で友人の家まで行って年賀状を配ったりしていた。京都でひとり暮らしをしていた頃は、眠れない夜に自転車を走らせて、家から遠く離れた場所で朝焼けを見たりしていた。比叡山越えをしたこともある。阪神大震災の時はマウンテンバイクで大阪から神戸まで走った。
家から太宰府まで  家の前を走る筑紫通りをひたすら南へ。博多区は南北に長く、北の方(海側)にはよく行っている。自宅がちょうどまん中あたりなので、一度南の端まで行ってみたいと思っていた。筑紫通りは交通量がそれほど多くなく走りやすい。本当は裏道に入ったりして面白い店などを探したいが、今日はとにかくどんどん進んでみようと思った。昔のようにスピードは出ないが、"自分の力で進んでいく"楽しさは同じだ。今乗っている自転車は車体がやや重く、スピードは出にくいが頑丈で乗りやすい。
 福岡は歩道と車道の段差が大阪よりきついので、自転車にかかる負荷が大きく、前カゴの中の荷物がはねて飛び出したりするのが難点だ。途中で久しぶりに博多ラーメンを食べ、さらに南へ。
銀天町商店街  雑餉隈(読めますか?)の銀天町商店街は思っていた通り庶民的なところで、大阪の千林商店街を思い出した。中洲川端の商店街もいいのだが、ちょっとすましている感じで、私はこういう下町の方が好きだ。やっぱりチラホラシャッターが閉まっている。こういう商店街が生き残っていけるようになってほしい……
 博多区を抜けたあたりで筑紫通りが終わり、こんなもんかなと思ったら「太宰府○○km」という標識が見えた。少し膝が重いが、行けるかもしれない。どうせこんな機会もないし行ってみよう、と思って、県道112号線に乗り換えて大野城市に入りさらに南へ。心なし博多区よりも街がこぎれいな感じがする。大野城市を通り抜けてとうとう太宰府市へ。山が近づいてきた。博多に住んでいるといつも風景の後景に山が見える。実際に山の麓に来てみると、改めて遠くに来たんだなあという気がした。
水城跡水城跡  これまた見てみたかった水城を抜けて、あと一息太宰府天満宮をめざす。観光道路なのか道が整備されて美しい。太宰府政庁跡は見晴らしがよく奈良公園を思い出した。西鉄で太宰府に行くとここまでは足が届かないので、これだけでも自転車で来た甲斐があった。サイクリングにも向いているコースだ。妻好みの場所だが、ここまでもう一度自転車で来られるかな…… さすがにくたびれてきて喫茶店に誘惑されるが、なんとか着くまでガマンして最後の上りを走りきり、ついに西鉄太宰府に到着!
政庁跡太宰府に至る道路  太宰府は祭りの最終日で人が多かった。何度も来ているが、ささやかな達成感があると風景も違って見える。天満宮の反対方向に足を伸ばして、妻へのおみやげにとんぼ玉細工を買った。天満宮の入り口まで自転車を引いていく。
太宰府天満宮参道  私はお寺にも神社にも本気で「お参り」をしたことがない。無神論者が形だけお参りしてもしかたがない、神様仏様からすれば逆に失礼であろう、と思ってきた。塾の生徒に合格鉛筆や合格消しゴムを買って渡すのはそれが生徒の支えになるからで、私自身が験担ぎをしているわけではない。それでも合格発表の翌日に来たのだから、今日くらいお礼参りをしようかと思っていたが、いざその場に行くと落ちた2人の顔が頭にちらついてどうにも集中できず、お賽銭だけ投げて終わりにしてしまった。死んだら地獄行きやわ。
 さすがに膝にきたので、太宰府駅の近くの喫茶店でロイヤルミルクティーを飲んで一服。やたらとのどが渇いてお水を何杯ももらった。福岡に引っ越してきてからは喫茶店にはいることがあまりなかった。スポーツ新聞を読み、ソフトバンクの強さにため息をつき、阪神の記事の少なさにまたため息をつく。
 1時間ほどボーッとしてから帰途へ。帰りは寄り道をせず、最短距離で家までどのくらいかかるか測ってみるつもりで走った。行きしに見かけたリサイクルショップをちょっとのぞいただけで、あとは延々と走る。相変わらず膝に違和感がありスピードは出せないが、その分息が切れることもなくなんとか最後まで走りきった。太宰府天満宮から家までほぼ90分。これだったらまた行けるかな。
 体を動かして疲れたけど、その分モヤモヤがちょっとだけスッキリした。失敗を償うのはこれからだ。失敗した子を支えるために、そして次の受験生のために、エネルギーを蓄えないとね。(2007/4/2)


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