阿蘇に一泊旅行

 九州に引っ越してきてからは「九州にいる間は旅行は九州へ」という感じで、近いところにしか行く気がしない。一度阿蘇に行ってみたかったのでお盆に予定を組んだ。黒川温泉は予想通り予約で一杯だったので諦め、阿蘇の近くの旅館を予約して一泊旅行に出かけた。
リレーつばめ  朝9時に家を出て博多駅まで妻と歩く。いつものことだが駅まで歩いていけるというのも便利だ。9時30分のリレーつばめは混んでいたがなんとか座れた……が、すぐにおばあさんが乗ってきたので席を譲ってしまった。デッキで1時間ほど立って過ごし、熊本駅へ。ここから阿蘇方面に行く電車の接続が悪く待ち時間ができたので、水前寺公園に少し寄ってみる。豊肥本線の鈍行で新水前寺まで乗って、そこから市電で2駅。路面電車に乗るのは久しぶりでなんだか懐かしい。名古屋でも乗っていたような覚えがあるが、いつまで走っていたかな。
水前寺公園の前  水前寺公園に行く道は小さな商店街になっていた。公園にお金を払って入るほどの時間がないので、入り口で写真を撮っていると、妻がカメラを落としてしまった。シャッターは切れるのだが、電源を切るとレンズのふたが自動的に閉じるのが閉じなくなってしまった。公園の入場料をケチったバチか? いつも「持ってるだけじゃ危ないから首にかけたら」って言ってたのに…… しかたなく近くの店でとりっきりのカメラを買う。後で現像してみたら落とした方もちゃんと映っていた。修理代1万円也。
 豊肥本線に戻って鈍行で肥後大津へ、そこからさらに乗り換えて立野へ。大津とか瀬田とか滋賀県のような地名が多いのは理由があるのだろうか。立野から南阿蘇鉄道に乗り換え、阿蘇白川駅へ。途中川を渡る鉄橋で列車がスローダウンした。運転手さんが「ここは川から60m上です。こわい人は下を見ないように……」などとおっしゃるが、まるで見ないといけないような感じになってのぞいてみる。吊り橋から下をながめるような光景だった。車内から写真を撮る人多数。マニアにはたまらん光景だろう。
阿蘇白川駅日本一長い駅名  日本一長い名前の駅「南阿蘇水の生まれる里 白水高原駅」を通って、阿蘇白川駅で降りる。日本一長い駅名と言うが、実際にその駅名で読んでいる人などいないだろう。駅の看板だって写真のように「白水高原」だけ大きくなっていた。以前博多駅の近くに世界一長い地名として「クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーアユッタヤー・マハーディロークポップ・ノッパラッタナ・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」というのが書いてあったのを思い出した(タイのバンコクの正式名称)。宗教がらみなのだろうが、あんまりだ。
 第一目標は白川水源。暑いがさすがに博多の街中よりましで、なんとか歩いていく。1kmくらい歩いてまだ着かないので、喫茶店「蘇水」で休憩。ソファーが気持ちいい。とまとロールなるものを食べる。トマト入りだが甘くてなかなかおいしい。文章を書くのが好きな妻は記録帳を書いていた。
白川水源白川水源  喫茶店を出てまた歩き、やっと白川水源へ。このへんに来ると観光客が急に多くなった。少し山奥に入ったところに、底から水が湧いている場所があった。水が下から湧いてくるのはなんだか不思議な光景だ。最近よく見る深海の光景に似ている。水を汲みに来る人が多くペットボトルまで売っていた。これくらいの水だと飲んでも大丈夫なのだろうか。途中の店で黄鉄鉱(パイライト)を売っていたので、生徒に見せようと思って買ってしまった。
らくだ山の「こぶ」らくだ山からの眺め県道でバスを待つ





 ここかららくだ山公園に行こうと思って、店でおみやげを買いながら作戦を立てる。白川駅まで戻って電車に乗るよりここからバスに乗ろうと思って待つが、30分過ぎても来ない。渋滞しているのかなと思ったがさすがにジリジリ暑いので、諦めてタクシーを呼んでもらった。やはり車でないと動きにくい場所だ。
らくだ山からの眺め  らくだ山は思ったより遠く、バスではとても届かないところだったので、これが正解だった。遠くから見るとらくだのコブがいくつもあるように見える山だ。タクシーの運転手さんが「らくだ山の地鶏の店がいいよ」と何度も勧められる。リピーターが多いとのこと。友人からも勧められていたので、旅館で早い時間に夕食を予約してあったががんばって食べてみようと思った。
 まずは展望台へ。穴場なのかさっきと違って誰もいないが、眺めは抜群だった。根古岳がよく見える。高いので、近くの植物の背景に山が映るという珍しいアングルで写真が撮れた。阿蘇の内輪山がこれほどよく見える場所はなかなかないだろう。もう少し上がったところに草原があって、寝転がったら気持ちよさそうだったが、もはや余力なしで諦める。下には月廻り公園が見えた。ゴルフコースのような芝生でヤギが群れていた。本当は動物も見たかったのだが、残念。
らくだ山の地鶏定食  ここから歩いて、少し下にある地鶏の店へ。裏庭では地鶏が飼われていた。今から食べる生きものが群れて鳴いているのを見るとちょっと複雑な気持ちになるが、この感情を持つこと自体が理科教師としては失格であろう。お腹をあけるために妻と2人で地鶏定食1人分をいただく。冷房がなく窓を開け放しただけの店内は炭火の熱気でかなり暑かった。地鶏は少し硬いが味が深い。炭火で焼いた肉をはさみで切って食べる。たれは醤油味で個人的にはもう少し甘いのが好きだが、これはこれでおいしい。友人や運転手さんが勧めるのがわかる気がした。
 またタクシーを呼んでもらって高森駅へ。南阿蘇鉄道の沿線はおおむね田園地帯だったのに、終点の高森から先は商店街もコンビニもあり集落になっていた。駅に着いた途端夕立で大雨。カサをさしてもぬれるほど思い切り降る中を電車まで走る。今まで降らなかったのもカサを持ってきたのもラッキーだった。こういう幸運に感謝できるようになったのは成長か?
 長陽まで乗り、そこから旅館に電話して迎えに来てもらった。旅館朝陽はインターネットで予約した旅館で、温泉と食事が売りとのこと。部屋には風呂もトイレもなく(共同)、部屋の外がすぐ浴場で少々騒がしかったが、音は気にならない口なのでよかった。暑い中あちこち歩いて疲れたので、食事の前にお風呂に入る。今まで旅行に行ってあんまり「いいお風呂」にあたったことがなかったが、今回は新しく広く人も少なくて入りやすかった。高校生の頃は長風呂だったのに、今は30分入ればいいところなのは、狭いお風呂に入り続けてイヤになってしまったからだろうか。
朝陽での夕食  お風呂から上がって夕食。肥後牛のしゃぶしゃぶがメインで馬刺し、刺身。久しぶりの馬刺しはあんまりよく味がわからなかった。さっき地鶏定食を食べたくせにご飯をお代わりしてモリモリ食べた。由布院の時もそうだが旅行に行くと大食いになるのは、気分が変わるからだろうか。最近はあまり肉だらけの食事をしていないので、胃の中が油だらけになったような気がしたが、満足。
 翌日は遅めに起きて九州横断バスで阿蘇山頂をめざす。朝食はバイキングだがさすがにお腹いっぱいで、あまり入らなかった。旅館のロビーで久しぶりに「なるトモ!」を見た。大阪のテレビはやっぱり面白い。なんで福岡でやらんかねえ。
バスから見る米塚バスから見る草千里  11時にまた車で送ってもらって立野のバス停へ。11時20分に来るはずのバスが……来るはずなのに、まったく音沙汰なし。日差しを受けながらつぶれたレストランの前でじっとバスを待つ。30分待っても来ないので九州産交に電話をすると「道が混んでいるので……もうすぐ来ると思うのですが」とか話したところで切れてしまった。昨日のバスといいのんびりしている。名古屋育ちの関西暮らしとしては少々イライラするが、まあ"世界基準"で考えればこっちが普通なのだろう。せめて暑くなければよかったのだけど……。結局45分待ってバスに乗り、阿蘇山頂へ。行ってみたかった草千里は車で通り過ぎただけで終わった。「博多っ子純情」で主人公が草千里で遊ぶ光景が印象に残っていたのだ。しかし実際の草千里は人がいっぱいで、風景を味わうには少々騒がしい印象だった。まあまた行く機会があるかな。
阿蘇の火口阿蘇の火口  バスで山頂に着き、昼食をとってからロープウエーで火口へ。火口の底には青緑色の水がたまっていて、そこから白煙が立ちこめている。銅イオンの色に見える。かすかに硫黄のにおいがするが、煙はほとんど水蒸気だ。この状態ではさすがに生物はいなかろう。地上で「生きものの全くいない場所」というのはめったにないから、そういう意味でも子どもに見せてみたいように思える。火口の崖は地層がよく見えて、ここでも勉強できそうだ。お盆で人がいっぱいで、山を見るより人を見るという感じも少しあったが、まあ人のことも言えないししかたない。生徒に見せようと思って、また硫黄と火成岩を買ってしまった。
「あそ1962」の車内「あそ1962」  90分の休憩が終わって再びバスに乗り、山を下りて阿蘇駅へ。バスが遅れたので予定していたモーモーファームを諦め、ここから帰ることにした。駅の近くの売店で生徒用におみやげを買う。「観光列車あそ1962」の空席があるとのことで、乗ってみることにした。レトロ列車で木製の車内はそれなりに雰囲気がある。自転車持ち込み可の車両があるのは面白かった。車掌さんが日付の入った看板を持って「写真を撮りましょうか?」と声をかけておられた。昔よりこういうサービスは増えているように思うが、もうひとつピンとこない。やり過ぎのような気がするのは私がおかしいのだろうか。
 熊本までこの列車に乗り、熊本駅で降りておみやげを買おうとしたら「途中下車できません」と言われたので(割引キップのため)、結局そのままつばめに乗って帰ってきてしまった。2日目に行ったのは実質1ヶ所だけ。もったいないような気もするけど、旅に能率を求めすぎるのもどうか、アクセクしすぎなんじゃないか、と言われたような旅行だった。
 どうせ「不感症」なのだから、欲張ってあちこち行ってもそんなに意味はない(妻は別)。しかし今回のような理科教師にとっておいしい場所に行っても感動が起きないというのは、自分にとって深刻な問題を突きつけられているようにしか思えない。阿蘇を見てみたいと思った自分の気持ちはウソではないけれど、そこを見たからといって感動するというような「心のパワー、新鮮さ」が自分の中にはないような気がする。醒めているというのとも違う。感動を求める方向がずれているのだ。 ……それでも自然に触れること、自然と向き合う自分の感覚を見続けること、それが自然科学を教える人間としての最低限の"義務"なのだと思いたい。おいしいものを食べるだけのために旅行に行くわけじゃないから。(2007/9/3)

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