音楽の週末

 (2009年7月20日)
 土曜日は生徒が出るブラバンのコンクールを聴きに行った。
 いつもの福岡サンパレスまで自転車で25分。入場料1500円はちょっと高い。ホールに入ってすぐにお目当ての高校の演奏が始まった。
 正直なところ、まともにブラスの音を出せる高校は少ないような気がする。鍵盤を弾いている人間からするとどうしても音痴に聞こえてしまう。
 この高校もそれほどうまいとは思わなかったが、わざわざ難しい自由曲を選んで必死に演奏しているのは、なんとか予選を通りたいという気持ちの表れのように聞こえた。私の生徒はやたらと速いクラリネットのパッセージを気持ちよさそうに吹いていた。

 終わってから外で記念写真を撮っているのを見ていると、3年生の半分くらいが泣いていた。まだ結果が出たわけではないが、これが最後になるかもしれないと思えば、涙も出るだろう。私の生徒はまだ2年なので、普段見ないような晴れ晴れした顔をしていた。ちょっぴりうらやましかった。

 私は中学でも高校でもかなり強い運動部の万年補欠で、正直なところ試合に勝ってもあまりうれしくなかったし、最後の試合が終わってもどうということはなかった。「あ〜やっと終わった!」という感じだった。
 同じくらいきついクラブをやりながら、ブラバンの子たちは彼らなりにやり遂げた充実感を味わっているように見えた。
 成績が上がらず勉強では苦労し続けているこの生徒は、しかしある意味ではとても充実した高校生活を過ごしているように思える。
 私の頃と比べてずいぶん予備校化している高校の中で、勉強とクラブを両立させることは至難の技だろうが、やりがいもあるだろう。別にクラブでなくてもいいが、高校の3年間の中で勉強以外に「壁を越える」経験をしてほしいなあと思う。


 そして日曜日は私の本番。ミヤジックで演奏した。
 7時に起きて荷物をまとめ、電車からバスに乗って宮地嶽神社へ。9時前に会場に着くともう音響チェックが始まっていて「声を出してみて!」といきなり言われた。覚えていない2日目の歌を適当に歌……えるわけもなく、我ながら使えないなあと思いながら他の人に任せた。

 生徒以外の前で歌うのは18年ぶり、他人のキーボードを借りてしかも野外という「緊張してください」と言わんばかりの条件で、舞台であがることのほとんどない私も足が震えた。
 直前まで生徒が来なくてどうなることかと思ったが、時間までには集まってくれた。お母さん1人を含めて13人。思い切り舞台の私物化やな、と思いながら、11時45分に弾き始めた。
 予想通り普段と全く違う鍵盤に手こずり、外にどれくらい声が出ているかわからずやたらと張り上げ、ミスだらけながらなんとか20分歌いきった。いつもは新曲が一番緊張するのだが、今回はラクに歌えた。
 片づけてから生徒としばしお話し。久しぶりの人もいて懐かしかった。本当はビデオ録画を手伝わなければならなかったのにほったらかしで、同窓会のような乗りになった。そんなに誰かに迷惑をかけたわけではないと思うのだけど……どうだったのかな。

 天気予報は雨だったが幸いにも全く降らず、曇りだったので暑くもなく、コンディションは最高だった。
 ステージは延々と続き、生徒も少しずつ帰り、他の人の歌を聴きながら、音楽の「意味」をいつものように考えた。

 前に書いたように、私にとって音楽は趣味でも楽しみでもなく、自分自身の「表出」なので、正直に言うと不特定多数に聞いてほしいと思ったことがない。歌を聴いて感動してほしいとか元気になってほしいとかも思わない。

 あえて言えば、私の曲は全部誰かにあてた手紙のようなもので、Mさんにあてた手紙をKさんが読んだからといってどうなるものでもあるまい。
 それでも生徒に聞いてほしいと思ったのは、要するに生徒に私自身をわかってほしいというわがままなので、それにつきあってくれたみんなには感謝以外の言葉は浮かばないのだが、こんなことをしていいのかというひっかかりが残るのも事実だ。

 他人の手伝いをやめて自分の歌しか歌わなくなった今、自分にとっての音楽は、ここで盛り上がっている人たちの音楽とは全く違うものではないか。もちろん音楽をどう聞くかは聞く人の自由なのだけれど、私自身の思いと聞く人の思いがずれてしまうとしたら、少々さびしい。
 ……それもわがままか。こんなことを考える人間には、他人の前で音楽をする資格なんかないんじゃないのか?

 ……ともあれ 来てくれたみなさん、ありがとうございました。もし次の機会があるのなら、もう少しましなものにする……つもりです。
 実行委員のみなさんにも、感謝しています。役に立ったのかしらん。

今回のラインナップ
「何も知らない」
「Still」
「出会いと別れの間に」
「思いの距離」(2009/7/22)

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