香椎の曇り空

 (mixiの日記より 2011/8/22)

 夏休みの塾での仕事もほぼ終了。今日からまたしばらくお休み。

 ほぼ1ヶ月、9時から21時までのフルタイム授業8回を含めて23日間、塾に通った。実験の準備やら予習やらコメントやらで寝る時間がどんどん減り、お昼休みは何も食べずにほぼ熟睡。ミスもあったがなんとか最後までやりきった。

 上司からは「高校がイヤになったら、また戻ってきてください」と言っていただいた。
 ありがたかったが、これって松陰に行く直前に桂の塾で言われたのと一緒。あのときにはしゃぶしゃぶをおごってもらってから、
 「先生も結婚されるんですから、私が(塾の近くに)マンションを買ってあげます。どうかこの塾でずっと……」
 とか言われて、さすがに驚いた。でもそれで人生を縛られなくてよかったって思ってる。今回も同じかな。そろそろ関西にも帰りたいし。

 毎日コメントを書くのは本当に大変だったが、それでだいぶ子どもの顔を覚えられたし、子どもと気持ちが近づけた分パワーをもらえたし、今までよりもフィードバック(コメントを参考にして授業を改善すること)もうまくできたような気がしている。
 3年ブランクがあったので、新カリへの対応とか入試情報に疎くなっていてミスもあったが、周りの方にフォローしていただいた。気遣っていただけるのは本当にありがたかった。

 実験も色々やってみたかったが、とにかく授業時間が短く、休憩がないので準備のヒマもなく、用意したけど結局見せられなかったものもたくさんあり、ある意味むなしかった。苦労してつくった実験器具より、持っていっただけのイノシシの頭骨とかUCAS(空中浮遊するコマ)の方が受けるのも、よくあることだがなんとなく悔しかった。
 特に小学生は実験好きで、やたらと実験をせがむのは昔と同じだ。受験しない小学生にとっては、細かい知識を覚える訓練をするよりも、色々な実物を見せて経験させる方がはるかに意味があるだろう。原発の話、遺伝子の話、食糧危機の話(「ミドリムシラーメン」の話をすると、なぜかみんな食べたがった)、色々な話を真剣に聞いてくれる小6や中1のノリは、私に教えることの楽しさと怖さを思い出させてくれた。
 最後の日には中3に自分なりのメッセージを書いて渡し、「実は俺はセミプロのシンガーソングライターなんだ。みんながあと半年がんばって合格したら、祝賀会に来てみんなのために歌ってあげる。だからがんばれー」と言うと、結構驚かれた(そりゃ驚くって)。こんな講師なかなかいないよね。

 これで中3とはお別れ。みなさんのあと半年間の健闘を祈ります。

 そのメッセージの後半−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

それぞれにステップアップを

 入試は他人と点数を競争するものですが、別に福岡県すべての中3生とみんなが競争するわけではありません。志望校が変われば競争する相手も変わります。どこの誰かわからない人と競争すると言われてもピンとこないだろうし、それがやる気につながるとも限りません。
 受験は結局は、自分自身との勝負だと思います。自分が行きたい高校を自分で考え、合格するための作戦を(塾などを利用しながら)たて、目標を達成するために努力し、成功や失敗を繰り返しながら力をつけていき、そこまでやってきたことを支えにして「勝負」するのです。こわいかもしれないけど、大学入試と違ってみんなは浪人することはないので、来年の春には必ず高校生になれます。もし本命の高校に行けなくても、今から半年の間本気で努力し自分を高めようとすれば、その経験は合格以上のものになって必ずこれからのみんなを支えてくれます。山本はそういう人をたくさん見てきたので、これだけは保証できます。
 今の成績がどうであっても、どこの高校を目指すにしても、ひとりひとりがそれぞれの目標を持って進歩していってほしいです。何を目標にすればいいのか、どう努力すればいいのかは塾の先生などオトナに相談していいと思うけど、意志を持って進んでいくのは君たち自身しかいません。どうせしんどいことをするのなら、受け身にならず自分の気持ちで勝負して、合格したとき思いきり喜べるようになってほしいと思っています。
 みんなのこれからを応援しているよ。短い間だったけどありがとう。
どうか後悔しないように、これからの半年を走り抜けてください。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 最後の模試の日、電車が遅れて終わり際に教室に行って、試験中の3年生を見ていた。
 何人かはこちらを見て、会釈したり笑ってくれた。泣きそうになった。これが自分にとってのご褒美なのだ。やっぱり自分にはまだ、子どもからエネルギーをもらう力があった。それがわかったのが、今回の夏期講習の最大の収穫だった。


 塾の横に小さな汚い川が流れていて、毎朝川の横を歩いて塾に通っていた。
 海に近いので、色々泳いでくる。カメはわかるとして、クラゲの群れとか、エイとか、サバにしか見えない大型魚とか。絶対川魚に見えない小魚の群れが、時々一斉に水面に口を出して息をしながら雨上がりの濁った川を上っていくのは、ちょっと感動的だった。こんな川見たことない。

 生徒にそれを話すと、休み時間に塾のビルの階段の踊り場で休憩していた子たちの何人かが、下を見るようになった。「先生、ホントにエイがいた!」「クラゲがあんなにいるってビックリ」
 入試問題ばかりのつまらないテキストより、この川は数倍魅力的でよい教材だ。そのことを誰かにわかってもらえたことが、ちょっぴりうれしかった。

 最後の授業の日の朝、生徒と挨拶をしながらその踊り場でボーッとしていた。曇り空の向こうには筑豊に連なる名前も知らない山。真下には魚の観察場のような川。
 おそらく2度と来ないこの塾で、この子たちとこの風景を見ている自分が、とても不思議に思えた。一期一会という言葉を教わった中学の先生は大嫌いだったが、その言葉だけは今でも自分の中に残っている。本当はその先生にもっと感謝するべきなのだ。

 今こうして生きていられること、人を愛する力を身につけたいと真剣に思っていること、これからの自分の生き方を考えること。自分にとっての大きな曲がり角がやってきたことを感じる。

 どんなことがあっても、一度しかない人生だから、後悔をひきずって生きていきたくない。自分の能力を少しでも子どもの役に立てながら、生きてきてよかったと思えるように歩いていきたい。本気でそう思い始めている。

 挫折と後悔ばかりの人生から抜け出したい。過去に縛られたまま死んでしまいたくない。
 ボロボロになってもいいから、前のめりに歩いていきたい。
 ……やっと普通の人間として人生をやっていける気がしている。死の誘惑に負けないで、歩いていくんだ。(2011/8/22)


つれづれ 一覧に戻る

最初に戻る

inserted by FC2 system