研究授業の3日間

 (mixiの日記より 2011/11/4)

10/31

 研究授業は2年生の一番できないクラス。5時間目から。
 1時間目のあと2コマ空き。お昼を食べて友人からの「ほどほどにね」メールを何回も読み返す。
 4時間目の3年生は無事に終了。お昼休みの間に授業の内容を確認。
 丸イスを教室に持っていくと生徒が「何があるんですか〜?」と聞いてきたので、「えらい先生が聞きに来るんだよ。みんな頼むよ」と言って一度職員室に戻る。

 1時20分から授業。教室の後に先生が何人か来てたけど、ほとんど見なかった。

 新聞記事を配るかどうかずっと迷っていたけど、配って説明。授業案にはなかったので先生方はビックリしてた。
 一応プラン通りに授業を進める。後からの視線もあり生徒はほとんど寝ていない。
 でも宿題は(いつも通り)やってないし、プリントも(いつも通り)忘れてる。
 もう仕方ないって思いながらウニの絵を板書して写させながら解説。
 大きなゴミ袋を使って卵の変化を説明。自分でつくった模型を見せて回す。
 後で見てる先生たちを気にすることはなかったけど、生徒も緊張しているのがわかったのでとにかくヘンな感じだった。
 いつも寝てる女の子が必死に起きようとするんだけど、やっぱりコックリしてしまう。何回か頭をなでて起こすけど結局ダメ。
 それでもいつもと比べれば寝る子は少なかった。みんな協力してくれたんだと思う。それがとてもうれしかった。
 新聞記事の説明をした分だけ予定通り進めなかったけど、一応50分終了。
 終わってから生徒に「みんなありがとう」って言った。自然に気持ちが口から出た感じ。
 生徒も自分もホッとした感じだった。

 授業が終わって、理科室でまず理科主任と面談。
 具体的な注意を1時間ほど。早口、しょうもない冗談はダメ、作業だけの授業にしない、生徒にもっと注意する、など。
 いつものようにくどい感じだったけど、覚悟はしていたのでそんなにきつくはなかった。ただ長かったのでさすがに疲れた。
 でも「熱意はすごく伝わったよ。生徒もきっとそれは感じてると思う。」って言ってもらった。
 彼女の授業を見たことはないけど、この人もある意味俺と同じ「パワー系」の人みたいで、熱意だけは誰にも負けたくないって言ってた。俺にそんなふうに言うのはちょっと意外だった。

 次は同じ理科の若手先生と。
 彼はニコニコ笑いながら、「まあ色々あるでしょうけど……ボクは先生の授業好きですよ。○○(彼の担任のクラス、Yが教えている)のやつらは、ボクと先生は似ているってよく言ってます」って言ってくださった。  彼も研究授業のしんどさをわかっているので、気を遣っているんだろうな。
 29才の彼が47才の俺に強く何かを言うのもしんどいだろうなって思う。みんな大変だよね。

 次は副校長(校長の弟だって初めて知った)。応接室に呼ばれた。
 「あのクラスはいつもあんな感じですか」
 「年度の途中から大変なクラスをお願いしてすみませんね」
 「まあ一生懸命やってください」
 ここは無事に通過。

 次は教頭。ほとんど話したことのないおじいちゃん先生は、前は公立中学で理科を教えていたらしい。
 「もっと生徒に考えさせないと。誰でもできることをさせても達成感は味わえない」
(それができるんだったらさせてるって。あのクラスだぞ)
「もっと生徒にうまく見せる方法もある。たとえば………」etc。  もらった評価表を見ると6段階の5。5ってどっちだろうってよく見ると、悪い方から2番目。
 まあ仕方ないよねって思いながら職員室に戻ると、3年生が質問に来ていた。
 砂漠でオアシスを見つけたような気分だった。質問を受けて終わったのが5時半。

 他の先生を探したけどもう帰っておられたので、ちょっとだけ板書の練習をしようと思って、研究授業をした教室に行く。
 いつもの女の子たちが雑談していた。「ヤマジュン、どうだった?」「大丈夫?」
 適当に返事をしながら黒板に向かったけど集中できず。15分くらい書いていると「ヤマジュンしんどそうだよ、今日はもう帰った方がいいよ」って言われ、あきらめて終了。

11/1

 疲れが出たのかちょっと寝坊。2限目からなので大丈夫だった。
 昨日言われた具体的な注意の中でよさそうなのを大きな字でノートに書く。

 4限目 教務部長のS先生(同じ年くらいの女の人、採用面接で話した)と面接。
 S先生「いつもあんな感じの授業なんですか」
 Y 「昨日はまだマシでした。もう少し寝る子が多いです」
 S先生「あれは本当に授業ですかね、ひどかったですね」
 Y 「………」
 S先生「私も○○(1年生のできないクラス)を持っているんですけど、来年生徒があんなふうになるのかと思うとゾッとします」
 Y 「………」
 S先生「まあ先生が今あそこで授業をしているのはもう仕方のないことなので、とにかくやっていただくしかないですね」
 このへんで神経が限界に来た。
 Y 「……あの、私が本当にあのクラスを教えていていいんでしょうか」
 S先生「どういう意味ですか?」
 Y 「私に教える能力がないって判断されるのなら、他の人に代わった方がいいのでしょうか」
 S先生「今すぐに代わることはできません。」
 Y 「それはわかっていますが、生徒にとって私の存在がマイナスなら、やめるべきではないかと思いますが……」
 S先生「それは社会人として無責任じゃないですか」(そんなの言われなくてもわかってる)
 Y 「年度末(3月)まででやめて、他の人に代わった方がいいんでしょうか」
 S先生「それは理科の方(=上司先生)で決めることですから、私には答えられません。」
 Y 「……今は一生懸命やることしかできません。それでいいんでしょうか」
 S先生「今はそれしか仕方ありません。そうしてください。先生の問題と、クラスの問題がありますから、担任や他の先生とも相談して対処します」
 10分くらいの話で「仕方ありません」って5回くらい言われた。
 そんなにプライドってないけど、「お前が教えるのは仕方ないんだ」って言われたのは初めてで、さすがに堪えた。

 頭が真っ白っていうか「真っ黒」になって職員室に帰ってきた。まだ3コマあるのに。

 5限目は思いきり厳しくなって生徒がビックリしていた。何度も絶句して授業が止まった。
 普段慕ってくれている子も、ついていけない感じで途中から視線を合わさなくなった。

 6限目でもまだ軌道修正できず、生徒の顔を見られなかった。
 もう感情が入ったらダメだと思ってロボットみたいに教えようとしたけど、何度か言いようのない感情がこみ上げてきた。
 仕方がないので1分だけって言って、教室の外に出て深呼吸して戻った。みんな心配そうに見ていた。
 ちょっとだけ研究授業のことを話した。半分冗談で「もうすぐさよならかもしれないよ」って言った。
 授業の後コメントを集めたら、男の子が「大丈夫ですか?あんまり背負い込みすぎんといてください。ボク、先生の人間性と教え方好きッス。」って書いていてくれた。職員室の一番目立つ場所で泣いてしまった。

 7限目の3年生受験クラスまで少しだけ時間があったので、開き直ろうとした。
 もう本当にどうなってもいい。最後のつもりでやろう。自分の120%を出してやる。
 「笑顔」も「ゆっくり」も全部忘れて、本当の自分で勝負しよう。そう思って教室に行った。

 塾講師に戻って必死に50分しゃべった。本気になると自然にポイントではゆっくりになる。
 いいか悪いかわからないけど、これが長い間につくってきた自分のスタイルなのかもしれない。
 今までに何回かこういう授業をしたことがある。多分すごい顔をしてると思う。
 生徒がどうだったか見てないけど、普段は授業の後で雑談するのに、誰も何も言わずに終わった。
 これでよかったのかどうかわからない。自分がやめたいのかどうかもわからない。
 いっそクビになるのならそれでもいいかって思ってた。

11/2

 前日の後始末を何もせずに帰ったので、普段より少し早く学校に行く。
 コメントを書いてプリントを印刷して……とにかく目の前の作業をこなす。
 昨日よりは落ちついた。「仕方ない」先生でもやるしかないし。

 授業は思ったよりもリラックスしてできた。
 上司先生のアドバイスは頭に入っているので、まあできる範囲でやっていこうとした。
 授業が始まると頭が「飛んで」しまうので、なかなかうまくいかないけど、前よりは(いい意味で)ていねいにマメになろうとした。それが生徒のためだって思えたから。

 5限目は研究授業をしたクラス。野球部が試合で10人くらい公欠。
 教科書を出すように注意したり、内職の生徒をマメに注意したり、生徒をよく見てやろうとした。
 ペースが全然上がらないけど、欠席も多いし今日はもういいやって思いながら、30分かかって宿題の答合わせがやっと終了。できるクラスの倍くらい時間がかかるけど「仕方ない」よ。
 少しだけウニの卵の発生の順番を暗唱させて、最後の10分は思い切って自分の話をした。
 母親の記憶がないこと、義母とうまくいかなかったこと、それをエネルギーにして受験を乗り切ったこと、今でも義母とうまくいっていないこと、去年の名古屋でのできごと……
 なんでそんなことを話そうと思ったのかよくわからない。全員が聞いていたわけじゃないけど静かだった。
 授業が終わると男の子が「先生、俺も継母でお母さんが嫌い」って声をかけてきた。
 彼はどんな気持ちで俺の話を聞いていたんだろう。黙ってうなずいて教室を出て職員室へ。

 最後にもうひとりの教頭のI先生。生徒指導室でお話しした。
 I先生「先生、いつも大変ですね」
 Y 「……はあ」
 I先生「私もね、以前ああいう(一番できない)クラスで教えていました。苦労はよくわかります」
 Y 「……」
 I先生「私は正直心配してるんです。先生があんなに一生懸命やっていて、疲れてしまわれないかと」
 Y 「……はあ」
 I先生「一番大変なクラスを年度の途中からお願いして、本当に申し訳ないと思っています。
 先生、完璧を求めなくていいですよ。教えたいことの60%くらいでいいんです。先生が無理をして体をこわされたりしたら何にもなりません。できる範囲でいいんです。
 大きな声では言えないけど、ああいうクラスには、半分遊んでやるくらいの気持ちでいいと思うんです。
 ただ本気で勉強したい子、受験でいる子には、100%を教えてあげてほしいので、別に指示を出すとか、授業後に質問に来させるとか、フォローしてあげてください」
 Y 「はい」
 I先生「しんどくないですか。大丈夫ですか?」
 Y 「授業はたしかにしんどいです。落ち込むことも多いです。
 でも……あのクラスは最初から心配だったので、たくさん声をかけてひとりひとりと話そうとしてきました。勉強はできないけど、あのクラスに「悪い子」はひとりもいません。みんなやさしいしちゃんと話してくれます。
 あの新聞記事だって、ちゃんと感想を書いてくれる子がいます。読んでいてとても楽しいです。そういうことがとてもうれしいです。パワーもたくさんもらっています。だから必死でやりたいって思っています。」(ちょっと泣いてた)
 I先生「先生、本当にありがとうございます。でも無理をされないでください。
 S先生の言うことを全部真面目に受け取らないでいいですよ。私のあの人の言うことは3分の1くらいしか聞いてません。心配しないでください。
 先生、この学校の先生の半分くらいは私みたいな人間です。みんないい人ですよ。助けあっていきましょう。何かあったら担任や他の先生に相談してください。」
 Y 「……ありがとうございます」
 うれしかった。

 自分の中の深い部分は、学校の誰も知らない。多分教師より生徒の方が俺のことをよく知っている。でもそんなこととは関係なしに、助けあって支えあってやっていけるならそれはそれでいいのかもしれない。
 ……自分にそんなことができるのかどうかまだわからないけど。できないってあきらめてるからダメなのかな。

 その後すぐ理科主任(T先生)に呼ばれた。今度は何?
 T先生「S先生から聞いたんですけど、先生、やめたいって言ったんですか?」
 Y 「………(あのときの会話を思い出そうとした)」
 T先生「S先生は、Y先生が『もうやめたい』っておっしゃってるって言っていました。
 私は、先生がやりたいって言われるのなら、続けられたらいいって思うんです。でも先生が、もうこの学校はイヤだ、やめたいって思ってるのなら、次の年度で別の先生を探さないといけないので、そうします」
 Y  「……はあ」
 ここでイエスと言えば、3月いっぱいでやめることになる。やめたいって言いかけたけど、
 Y 「S先生と話したときは、何度も『仕方ない』って言われて、頭の中が真っ白になっていました。
 だからやめたいって言ったかもしれませんが、はっきりは覚えていません。
 ただ学校側が私を失格だと判断するのなら、私はやめるしかないと思います。
 私がどう考えようと、生徒にとって迷惑になっているのなら、ここにいる意味はないと思っています」
 T先生「先生、私は先生の熱意をいっぱい感じていますよ。
 色んな先生が、遅くまで(Y)先生ががんばっておられるのを見て感心されてます。
 生徒にもその熱意は伝わっていますよ。
 失敗はあってもいいんです。少しずつよくなっていけばいいんですよ。
 だから先生が『やりたい』って考えておられるのなら、続けていただいてかまいません。
 理科の方からそのように返事します。
 私は先生の気持ちを聞きたいんです。どうなんですか?」
 Y 「やりたいです」
 T先生「じゃあS先生とはそういうふうに話をします。
 先生、がんばりすぎないでいいよ。体をこわされるのが一番困ります。
 できる範囲でやればいいんですよ。先生の熱意を生徒に伝えてあげてください」
 いつも困ったようなしかめっ面をしてる上司先生は笑って言ってくれた。
 また泣いてしまった。うれし涙……じゃないような気もするけど。


 色んな先生や生徒と話して、大変な3日間だったけど、 ……とにかく今は、仕事を続けてみようって思ってる。

 批判されたことは仕方ないけど、ダメージはある。
 励ましてもらってことも本当にありがたいけど、それを素直に受け取ることもまだできない。
 どうして励ましてくれる思いを受け入れられないのか、自分でもわからない。閉ざしてしまってる部分があるからかな。

 学校だと塾のように、生徒と感情を共有してラクになることがなかなかできない。
 「つくった自分」でいる間は、ずっとラクにはならないような気もしてる。
 ……でもそれって多分贅沢なんだね。
 これがずっと続くって思ったらちょっとやっていけないけど、あと9ヶ月だし、やるしかない。
 来年の7月までやって今の気持ちが変わらなかったら、もう自分には学校は合わない、塾に戻るしかないって思えるかもしれない。それはそれでまた人生だし。

 明日は休みだけど、これからの3日間はめいっぱい準備しようと思ってる。
 うまく休むのも難しい。なんでこんな年になってこんなに不器用なんやろ。
 気分転換の方法がどうしてもわからない。気がすむまで仕事したい気持ちが抜けない。

 ある人から勧められて今頃「7つの習慣」を読んでいるが、その最初に「自分の行動も感情も自分でコントロールできる。それをするのが自分の責任だ」と書いてあった。
 自分が今まで振り回されてきたしんどさ、責任から逃げてきた「行動」、それらはすべて自分でコントロールして避けられるものなのだろうか。
 私がそういう努力をサボってきたから、こんなふうになってしまっているのだろうか。
今からでも自分が変われるって信じてるけど、誰にも頼らないで自分で自分を変えるほどのパワーが、本当に自分にあるのだろうか。わからない。

 今は……生徒の方を向いて、できることをしていきたい。
 手のしびれもとれないが、病院に行っても治らないような気がしている。どうするかな。
 自分をラクにする方法はまだわからない。
 ひとつだけ方法があるんだけど……できない。いつかラクになりたいよ。

(2011/8/22)


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