何も知らない

  真夜中の川辺で搖れる小さな花を見た
  ぼくはリュックを枕にして 眠りかけていた
  頭上はるかに瞬く 蛍の群れ

  かつて幾百の夜昼が この小さな谷間を通り過ぎ
  ぼくらはほんの一時を たたずむ旅人なのに

  花は何も知らない 自分の名前も
  花は何も知らない この国の名前も
  人里離れた夜は 川のせせらぎばかり
  静かに風が吹き出して 蛍の明りも見えない
  本当は人恋しくて 泣きだしそうなのに

  いつか幾百の夜昼が この小さな谷間を通り過ぎ
  ぼくらはそのときもう一度 旅人になれるだろうか

  花は何も知らない 自分の名前も
  花は何も知らない この国の名前も
  花は何も知らない 自分の名前も
  花は何も知らない この国の名前も

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