火祭り

  彼の右手は4才のとき機械で切断された
  まるでネジ切られていくボルトのように
  左手でどんなに上手な字を書いても 彼はバカにされ続けた
  それでも運動会でヒ−ロ−になれた 彼のやさしい瞳
  やっと見つけた仕事先で 小さな失敗をしてしまったとき
  やはりカタワはだめだねと言われて 目の前が暗くなった

    火祭りのうねりは高く遠く この胸に響いてくる
    押し寄せる怒りを受け止めても
    もうこれ以上 立ち止まってはいられない

  静かな港の雨上がり 古ぼけた漁協の3階で
  漁師たちは黙ってプラカ−ドをかき続ける
  「今年になってまだ10万ももうかってへんから 町まで歩いてデモするんや」
  原子力発電所を建てさせないための長く苦しい闘い
  俺のために かあちゃんのために 子どもたちのために
  白くさざめ立つ波の影 海は何も言わないけれど

    火祭りのうねりは高く遠く この胸に響いてくる
    押し寄せる怒りを受け止めても
    もうこれ以上 立ち止まってはいられない

  そして夕暮れる街角で 俺は疲れた体を引きずりながら
  変わりばえのない明日から 目をそらそうとしている
  腕にかざす武器は何もない この手に握る勇気もまだ見えない
  巧妙に仕組まれた生活の鎖の中で 何ができるというのか
  それでも呼び続ける声は もう耳からは消せない
  心ふるわせたその瞬間だけが 本当に生きるために

    火祭りのうねりは高く遠く この胸に響いてくる
    押し寄せる怒りを受け止めても
    もうこれ以上 立ち止まってはいられない
    火祭りのうねりは高く遠く この胸に響いてくる
    押し寄せる怒りを受け止めても
    もうこれ以上 立ち止まってはいられない

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