街が……

  駅前の古いさかな屋さんの
  イワシの天ぷらはいつもうまかった
  小首をかしげて包んでくれる
  おばちゃんの笑顔がとても好きだった
  ある日突然店がたたまれて
  でかいシャベルカ−が遠慮なしに叩き壊す

  やたらと背の高いおっちゃんのいる
  のぞけそうでのぞけない銭湯も
  あっさりつぶされて跡にできたのは
  てんですまして構えてるワンル−ムマンション
  うさん臭そうにいつも俺を見てた
  おっちゃんは今ごろどこにいるのだろう

  ぼくらが街と呼んだのは
  白光りのビルの並びではなく
  ぼくらが街と呼んだのは
  ひとりが寂しくないあたたかさ

  修学旅行の制服たちは
  お寺と河原町しか歩かないけれど
  カッコつけて金ばかりせびってる
  よそ向きの顔なんて俺は気にしない
  馴染みの飯屋で愚痴をこぼすのは
  金閣にも行ったことのない大工のあんちゃん

  車が多すぎて道を歩けない
  自転車が止まりすぎて道を歩けない
  バスが遅すぎてデ−トにも行けない
  赤字の地下鉄は遠くて使えない
  夏になれば臭い水は飲めやしない
  京都料理なんて高くて食えやしない

  こんな場所でも嫌いじゃないけど
  友だちはみんなここを出て行く
  京都なんて学生の時だけでいいと
  見捨てられた街はいつか骨董品
  百年たったらガラス箱に入れて
  どこかの博物館に飾ってしまおうか

  ぼくらが街と呼んだのは
  白光りのビルの並びではなく
  ぼくらが街と呼んだのは
  ひとりが寂しくないあたたかさ

詩の世界 一覧に戻る

最初に戻る

inserted by FC2 system