出会いと別れの間に

  いつもより少し遅い桜の便りと
  それでも暖かな陽気が街に帰り
  道に菜の花の薫りが立つ頃に
  ぼくたちはここで別れを告げる

  お互いの名前も知らずに向かい合った
  初めてのあの日にさえ 君は
  今と変わらない疑いのない目で
  ぼくを見つめてくれたね

  カレンダ−をめくるように 時は進んでいくから
  この場所の出会いの中で 悔いだけは残したくなかった

  黒板に書けなかった想いのひとつを
  ひとりきりの教室で口ずさんでいた
  不器用な真似ごとの教師でさえ
  伝えられる何かがあると信じていた

  迷いと焦りと戸惑いの中で
  いつしかぼくは教師でなくなった
  解けない黒板の前で悩みながらも
  みんなの中にいる それだけが支えだった

  最終電車を気にしながら悩んだことも
  我慢できなくてどなり散らしたことも
  きれいな涙を流した発表の日でさえ
  ただ同じ場所にいたかった

  間違ったことさえも たくさん言ってしまったけれど
  夢をあきらめることだけは 教えたくなかったから

  もう2度と重ならない この道を
  ぼくたちは歩いていくのだから
  見栄も意地も好き嫌いも隠さないで
  同じヒトとして向かい合えて よかった

  言えなかった名残の重さを 測っても仕方がないから
  この場所で流した心の汗を それだけを持って出て行こう

  出会いと別れの間には
  いくつもの思いが重なるけれど
  思い出に背を向けて歩き出す
  君のその眼差しを忘れない

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