五条通 夜10時

  それは仕事の帰り道に突然起こった
  いつもは避けて通る堀川五条の交差点
  懐中電灯をくくりつけた自転車で
  青信号を待ってゆっくりと走り出したら
  向こう側から白い車が右折してくる
  最後に目に焼きついたのは網目の浮かぶフロントライト

  自転車ごと被害者は5mもはね飛ばされて
  頭から落ちて即死だった
  道路についた染みのような鮮血を見つめて
  車を降りた運転手は笑うように顔をひきつらせた
  夜更けの通りは混乱に襲われる
  東からパトカ−と手遅れの救急車がやってくる

    誰のせいだろう 何のせいだろう
    こんな終わり方を 望みはしなかった それなのに...

  眼鏡をかけた運転手は調書を取られてる
  先頭にいたから何気なくカ−ブを切った
  急いでいたけど前はちゃんと確かめました
  歩道橋があったから大丈夫だと思っていたし
  大きな声で警官は質問を続ける
  何ごともなく夜は更ける 空はやけに明るい

    誰のせいだろう 何のせいだろう
    油断すれば命を落とす 死神だらけの狭い街
    誰のせいだろう 何のせいだろう
    真夜中のテレビでは あふれるような車のC.M.

  彼の妻が駆けつけたのは夜中の1時過ぎ
  青ざめて問いつめる彼女に返す言葉もなく
  運転手はやがてポツリとつぶやいた
  俺が悪かったんだろうか ただ疲れてただけなのに

    誰のせいだろう 何のせいだろう
    夜だから見にくかったのよと 彼女は元気づける
    誰のせいだろう 何のせいだろう
    死んだ者が戻らなくても 車は走り続けて
    誰のせいだろう 何のせいだろう
    人殺しと呼ぶ声は いつかかき消されて
    誰のせいだろう 何のせいだろう


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