主人公のいない階段

  冷たくなった体をひとりぼっちにしないで
  隣の部屋で思い出話なんかしないで
  私のことを思ってくれるなら 今晩だけでいいから
  やせた頬をもう少し見つめていて

  あなたは何のためにここに来たの?
  あなたは誰のためにここにいるの?
  本当に 私のために来たというなら
  焼かれる前に もう一度私を抱きしめて

  生きてきた証は他人の中にしか残らない
  私の証は私の中には何も残らない
  少しだけ寂しいけど 最後に
  登ってきた道を振り返って心から笑いたい

  当たり前に死んでいく人は誰もあっけない
  強がってもがんばってもわかりきって弱々しい
  だから迷って苦しんでのたうち回っても
  自分だけの階段を登っていく それだけ

  みんなの中で生きてこられたけれど
  みんなのために歌ってこられたけれど
  この道のりだけはきっと私だけのもの
  私がいなくなれば風に吹かれて消えていく

  ありがとうもごめんねもちゃんと言えたから
  お別れはもう身一つでしかたないけれど
  手作りの小さな階段 私の立った舞台を
  わきに抱えていくよ きっと幸せの証


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