プロ野球はどうなるか

 近所に、大阪では有名な商店街がある。テレビの街頭インタビューでもよく流れる場所だ。以前は鯨を売っている店があって、テレビの取材があったり、一癖あるおっちゃんがお客と色々盛り上がったりしていたが、一昨年閉まってしまった。人通りはいつも多いのだが、よく見ると開かない店がいくつも見える。商店街の端に行くほど閉まっている店が多い。開いていてもお客がほとんど入っていないところもある。
 景気がよくなっていると言われても実感がないのは、生活している町の中に活気が感じられないからだ。古い店がなくなっていくのは仕方がなくても、そこに新しいものが入ってこないのは寂しい。店がなくなることより、店の人とお客さんの人間関係がなくなるのが大きいように思う。この商店街がこれからどうなるのか、ここで働いている人たちがこれからも働き続けられるのか、見通しを持てる人がいるのだろうか。 ……大阪近鉄バファローズがなくなるのは、この大阪の状況を象徴しているようだ。
 命名権売却の話やあやめ池遊園地の閉園など、春先からすでに近鉄のリストラの兆候はあった。近鉄の球団経営の姿勢は、最近の球団関係者の発言からもうかがえる。こんな経営者がいても、昨年まで優勝争いに絡み続けていたのが不思議なくらいだ。球団が赤字なのは事実だが、お客が入らないのは昔からだし(最小入場者数150人という記録がある)、どうしようもないほど弱いチームでもない。むしろこれだけ記憶に残る試合をしてくれたチームは珍しい。私も西本監督の引退試合には感動した。これほどのチームが消えるのであれば、今後どこがつぶれてもおかしくない。銀行などの合併も内側から見るとこんな感じなのだろう。
 もっとも「バファローズ」は残るし本拠地は大阪ドームのままだから、考えようによってはブルーウェーブ(元阪急)がなくなるとも言える。阪急が身売りしたときも「もう応援しない」と言っていた人がいたくらいだから、今回の合併で応援する気をなくす人も多いだろう。大阪と神戸は近いが、だからといってファンが簡単に混ざるものではない。
 交流試合が行われるようになっても、仙台に新球団ができても、それでプロ野球が根本的に面白くなるとは思えない。どうしたらいいか、私なりの考えを書いてみる。

・地域密着は必要か
 地域密着には球場に来る地元ファンを増やしたいという意図があるのだろうが、巨人や阪神のように黒字を出している球団は地域密着ではない。巨人が全国ブランドになっているのも、東京以外の広い地域でファンを持っているからだ。もちろん数は違うが、甲子園と同じように東京や名古屋にも熱心な阪神ファンが集まる。阪神が関西に密着しているのでなく、関西人(の多く)が阪神に密着していると言う方が正しいだろう。
 たとえばドラフトを地域出身者に限定しトレードやFAを禁止し、中学や高校・大学にOBを送り込んで指導するなど、徹底的な策をとれば本当の地域密着になるが、そんなことを望む人はいないだろう。
 現状では、あるチームが地域に密着するということは、それ以外のチームのファンになりにくくなることを意味する。大阪にいるロッテファンは情報量に関してつらいだろうし、応援に行くのもしんどいだろう。まして球団のない地域の人々にとっては、地域密着を謳われるのはむしろ腹立たしいかもしれない。
 チームが地域に密着するのではなく、野球が地域(日本全体)に密着するべきなのだ。どんな地域の人にも、すべての球団のファンになる権利・応援に行く権利・情報を得る権利がある。極論すればフランチャイズもいらない。すべての都道府県ですべてのチームの試合が見られるようにしてほしい。テレビや新聞などの報道も地域偏向にしない方がいい。長い目で見れば、地域チームのファンより「プロ野球ファン」を増やした方が利益があると思う。

・記録やタイトルよりも、プレーを
 イチローの安打記録が話題になっているが、イチロー本人が言い続けているように、選手は記録のためにプレーしているわけではない。ファンが記録で盛り上がるのは自由だが、それが本当の野球人気につながるのかどうか疑問だ。本当に盛り上がるのは選手とファンの目的が一致するときである。昨年の阪神や今年の日本ハムを見てもわかる。
 選手の目的はもちろん勝利であり優勝であるが、もっと突き詰めて言えば目の前のプレーをいい加減にしないことである。大差で負けていてもあきらめない。優勝がムリでも目の前の一勝をあきらめない。勝っているなら点差を離すこと、よりいいプレーを見せることをあきらめない。 ……スポーツの一番の魅力は「あきらめないことから生まれるドラマ」だと思う。高校野球でもプロ野球でも他のスポーツでも、結末のわからないゲームの中でのあきらめないプレーにこそ、魅力がある。大差がついて結末がわかってしまっているなら、コールドゲームにして客に返金するかサイン会でもすればよい。
 プロスポーツの売る夢とは、常人にできない技や高額の年俸ではなく、あきらめないゲームの中でドラマを見せてくれることだと思う。金儲けなら他の職業でもできる。多くの職業で一流の者は「常人にできない技」をたくさん持っている。しかし普通の職業で、妥協せず結果を気にせず何かに打ち込めることはあまりない。やむを得ず現実と妥協してあきらめることに慣れている者にとって、可能性を追ってあきらめずにプレーする選手の姿は、結果にかかわらず魅力的だ。球場に行けば勝敗に関係なくいいプレーがたくさん見られるのなら、消化試合でも観客を集められるだろう。プレーの質だけでなく、スポーツに対する謙虚さと真剣さこそがプロに求められるものだと思う。
 個人記録やタイトルの表彰はやめたらどうか。記録はファンが楽しむためのものだけにして、選手の励みにはならないようにした方がよい。そのかわりどんな状況でも、よいプレー・悪いプレーを評価してあげてほしい。マスコミも勝敗や記録よだけでなく、もっと好プレー・珍プレーにこだわってほしい(必死にやっているからこそ珍プレーは笑えるのだ)。野球のスコアは見飽きるが、ファインプレーは何度見ても飽きない。毎日でも好プレー珍プレー集を放送してほしいと思うのは私だけだろうか?

・給料は観客が決める
 記録にこだわらないということは、記録や成績で給料を決めないということだ。選手の給料は基本的には観客の入場料から出るのだから、誰にいくら払うのかは観客が決めればよい。
 観客が球場に入る際に投票券を渡して、試合後に「お金を払いたいプレーをした選手(複数)」の投票をしたらどうか。シーズンが終わったときに集計をして、最低基本給に加算する形で年俸を決めたらどうか。(私は生徒からこのように言われたことがある。給料を払いたい先生と払いたくない先生がいるのだそうな。だれにいくら出すのか生徒が決めるようになったら、教師もやる気になるかな?)
 プロスポーツ選手には基本的に年功序列は向かないと思う。過去の成績に甘えるような要素は排除するべきだ。そのかわり引退後の生活について保証してほしい。職業訓練を無料でするとか、学校の指導者になる道を開くとか、地域の野球クラブを主宰できるようにするとか、方法は色々あるだろう。将来の不安を取り除いた上で、一日一日の試合に全力投球できるようにしてあげてほしい。

・試合の見せ方
 外野スタンドから見ると、選手の表情や投球の細かいコースはわからない。ラジオの中継を聞きながら試合を見ている人もかなりいるし、球場内のロビーのテレビを見ている人も少なからずいる。ネット裏など近い場所はいいのかもしれないが、外野席にいると試合を見るというより応援している人の方が多い(「野球を見る」のと「応援する」のは、似ているが違う)。球場にいる人が、もっと野球を見やすいようにできないか。コンサートのように大型ビジョンを外野席に設けるとか、有料で小型テレビを貸し出すとか、これも方法があるだろう。現状では、外野席で見るよりも家でテレビを見る方が面白い、という人もいるはずだ。
 バッテリーと打者のかけひきも、もっとわかりやすく見せてほしい。せめてネットのアソボウズのように、配球がわかるように表示できないか。
 応援に来るのもいいが、特定のチームを応援する人はある程度以上は増えないだろう。応援ではなく見て楽しむ人のためのしかけも工夫する余地があるだろう。

 どんな選手にも、野球と関わってきた歴史と野球への思い入れがある。そういう思いを持った選手が、邪念抜きで野球を・目の前のプレーを楽しめる、そういう選手を観客が見て楽しめるプロ野球であってほしい。スポーツの世界は、選手のためのルールだけに縛られる、とても自由な世界だ。その自由の楽しさを見せつけてほしい。野球そのものが魅力的になれば、現状がどんなに危機的でも打開策が見つかると思う。(2004/10/1)


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