軍隊は人殺しのための組織である

 イラクの陸上自衛隊が撤退することになったが、サマワがどういう状態になったから撤退するのか、どのように役に立ったのか迷惑をかけたのか、詳細な報告を見かけない。陸上自衛隊が撤退するといっても、航空自衛隊のアメリカ軍支援範囲はむしろ拡大するので、全体としては「より戦争に参加する」方向に向いたと言えるだろう。(今までは航空自衛隊の物資を主に輸送していたが、これからはアメリカ軍の物資だけを輸送することになる)
 自衛隊の死者は1人もいなかったというが、自衛隊が傷つけた人は1人もいないのか。もしイラクの誰かを傷つけたり殺していても、それを今の自衛隊が公表するだろうか。権力におびえるマスコミがそれを報道するだろうか。メディア規制をしたことそのものが、自衛隊が問題を起こしている可能性を示唆しているのではないか。
 軍隊は暴力を肯定する組織であるから、論理的に話し合いや民主主義と相容れない。軍事機密などという都合のいい言葉もあって、自分たちに都合の悪いことを隠そうとし、政府はそれを支持する。そのような組織が戦争中の外国に長期間駐留して「何もなかった」「人々の役に立った」と言っても、信用することができるだろうか。もし日本に北朝鮮の軍隊が1年以上駐留し、戦車であちこち乗り回したら、「精神的苦痛」を受ける人が出ないと言えるか。そのような想像力もなしに「いいことをした」ですむのか。
 今こそマスコミがサマワに行って、自衛隊が何をしたのか詳細に調査するべきではないのか。それは外国に"軍隊"を派遣した国民の責任であろう。
 たとえば6月21日付『赤旗』には、サマワの声と題して、現地の住民2人の声を紹介している。記事によれば「自衛隊はサマワで何の役割も約束も果たさなかったし、ほとんど何もしませんでした。」「友人としての日本人は歓迎しますが、占領軍としてはまっぴらです。」「……占領軍は、米軍の要求を実現するために私たちの国を奪いました。自衛隊もこれらの占領軍と同じです。」「彼ら(自衛隊)はイラク人だけでも十分にできるような非常に簡単なことしかやりませんでした。」「日本の首相には、うそで塗り固められた約束ではなく、真の復興事業をやってほしかったのです。」
 一方、自衛隊第一次派兵隊の番匠群長は「(自衛隊が訓練で)十年分の弾を1〜2ヶ月で撃たせた。これ以上撃てないというくらい、徹底して撃たせた」と語っている。人を助ける訓練でなく、"敵"を殺す訓練をして外国に行くのだから、役に立たないのはむしろ当然であろう。このような訓練をした「占領軍」をどうやって信頼できるか。
 どんなにかっこいい言い方をしようが、軍隊は人殺しのための組織であって、それ以外の仕事はオマケでしかない。相手が攻めてくるかもしれないから自分たちも軍隊を持つのだ、というのは、相手が殺すなら私も殺す、という脅し合いである。その考え方がまちがっているとは言わない。しかし(事実上)軍隊を持つのならば、私たちは子どもに「人殺しは悪いことだ」と言うことはできない。「人の命を大切にするんですよ」とも言えない。それらはすべてウソであって、「自分の命のためには、人の命を犠牲にしてもいいんですよ」という現実を私たちがつくっているのだ。文科省はそのことを認めて、学習指導要領をそのように改めるべきだ。そんな国家規模の欺瞞が横行しオトナの多くが認めてしまっているから、子どもがオトナをバカにしたり絶望したりするのだ。
 再度書くが、イラクの航空自衛隊はアメリカ軍に補給を続けている。そのアメリカ軍は毎日イラク人を殺している。私たちは明確に人殺しである。私たちに殺人事件を非難する資格があるだろうか。北朝鮮のできそこないミサイルを非難する資格があるだろうか。私たちに人を愛する力があるだろうか。平和を口にする力があるだろうか。本当に正気で、そんなふうに考えられるだろうか。(2006/7/3)


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