音楽を地域に

 生徒が出るというので、中学校のブラスバンドの発表会に行った。
 小雨の中 海近くの福岡サンパレスに行き、1500円のチケットを買って中に入ると、記念撮影の中学生でロビーがごったがえしていた。お目当ての学校まで1時間あまりボーッと聞いていた。一生懸命やっているのはわかるしキビキビしているのだが、あの子たちは音楽をどれくらい楽しんでいるのかな、審査員の点数のためにやっているのかな、とも思った。こっちの感性が死んでいるんやろか。
 最後から2番目で、教え子のいる学校の演奏が始まった。正面奥でトロンボーンを吹いている子の顔がこわばっているのが、遠目にもわかった。課題曲は和音が少々難しそうな曲で、どこの学校もテンションをうまく響かせるのに難儀していたが、この学校もコードチェンジのところでおっかなびっくりになるのがわかった。自由曲は元気がよくて聞きやすかったが、やっぱりまだ緊張が抜けないようだった。
 演奏が終わった後ロビーで待っていると、その子たちが出てきた。引退コンサートになる中3は泣き顔で「先生〜〜!」と言ってくれたが、半分は力を出し切れなかった悔し涙のようにも見えた。
 結局その学校は銀賞で終わり、次の大会には出られなかった。次の日に話したら「ホント緊張して音が出なかった。悔しい〜〜」などと言っていた。いい顧問の先生に見てもらっているそうで、技術的にはそれなりの水準なのだろうが、まあしかたないね。

 この子たちはこの日の失敗をどんなふうに"雪辱"できるのだろうか。部長を務めていた子は「ブラバンの強い学校に行きたい」と言っているが、正直なところ成績次第という感じで、どうなるかわからない。福岡には精華女子というブラバンで有名な学校があり、小倉から長距離バスで通う子もいるらしい。去年の中3でも迷ったあげく「ブラバンをやりたい」といってその学校を選んだ子がいた。それはそれでかまわないのだが、みんながそこまで(他の条件を度外視して)ブラバンに青春をかけられるわけでもないだろう。
 学校の小規模化が進み、音楽に限らずクラブの顧問がなかなかそろわなくなっている今、学校単位でクラブを運営するのは大変だろう。この子たちががんばれたのも顧問の先生の献身的な努力のたまものだろうが、すべての学校にそんな先生がいるわけではない。
 よく言われていることだが、このような活動を学校から切り離して、地域に根づいた音楽クラブをつくれないかと思う。「宗像ブラスバンドクラブ」でいいではないか。今の中学校単位でなく、もっと広域から子どもや大人を募って、学校などを借りて音楽活動をすればよいだろう。コーラスやブラバンだけでなく、ロックバンドやフォークや、もっと言えば生粋日本文化である「民謡」を楽しむクラブがあればなおいいだろう。年齢別にグループに分けてもいいし、もちろん縦のつながりも貴重だろう。この子たちにとって、勝ち負けに関係なく音楽を楽しむ先輩の存在は、技術以上のものを教えてくれるだろうし、地域の中で演奏することによって、様々な音楽が文化として根づく可能性もある。現状ではブラバンもコーラスもマンドラもいわば「学校文化」であって、誰もが気軽に聞いて楽しめるというものではない。音楽を一部の生徒や保護者の中に閉じこめないで、色々な場所で聞けるようにする(精華はこれを実践しているらしい)ことが、このような音楽がこの国の文化の中に溶け込んでいくカギになると思う。
 私は一応エレクトーン弾きだが、たとえばデイサービスセンターや老人ホームで弾いてほしいと言われれば、喜んでタダで弾かせてもらいたい。弾きたい人はたくさんいるだろうし、また音楽を求めている人も少ないとは思わない。聞く側とのつながりの中で「もっとうまくなりたい」という気持ちが出てくるのがもっとも自然な動機で、本来音楽は競争するものではない。要は聞かせたい人と聞きたい人をどうやってコーディネートするかということで、そのようなことこそ行政がやってもいいだろう。
 ……というようなことを考えながら、土砂降りの中を家まで自転車で帰った。これから中3は勉強漬けだ。トロンボーンの子は苦労しているが、いつも授業前に来て質問してくれる。大変だけど、一緒にがんばろうね。(2006/7/31)



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