北朝鮮の核と佐賀県の核

 北朝鮮が核実験を行ったらしい(正確にはまだ確認されていない)が、あの国の立場からすれば当然の行動である。アメリカとの対立の中で「国を守ろう」とすれば、アメリカに脅威を与えうる武器を持つしかないだろう。もし日本がその立場に置かれたら、今北朝鮮を非難している人々のほとんどは日本の核実験を支持するだろう。
 核兵器は実際には国を守るのではなく政治権力を守るものでしかないが、"武器が国を守らない"という点については北朝鮮も日本もアメリカも同じであって、要するに北朝鮮はアメリカのマネをしているだけである。そのアメリカに追随し、核のカサに守られている日本が北朝鮮を非難するのは、滑稽なことだ。自分の親分が相手にピストルを突きつけているのに、相手がピストルを出そうとするとムキになって非難するのを、子どもに対して正しいことだと説明できるだろうか。私が中学生なら「バカじゃん」と言って終わりだ。自らの側が武器を突きつけながら、相手から武器を突きつけられることを恐怖する行為こそ、"平和ボケ"と呼ばれるべきものではないか。
 ところで九州電力は、佐賀県の玄海原発3号機でプルサーマル発電を行う計画を進めている。反対署名も集められているが、このままいけば実現しそうだ。この他に島根原発、愛媛の伊方原発、石川県の志賀原発などでプルサーマルが計画されている。
 プルサーマル発電の問題点についてはこの本に詳しいが、少なくとも現在よりも事故の確率が上がることはまちがいない。佐賀県の原発で大事故が起これば、福岡県はほぼ全滅である。私も妻も生徒も生きていられないだろう。未来ある子どもだけは傷ついてほしくないが、事故が起こってしまえば私が何を願ってもムダだろう。この計画が佐賀県だけの承認で進められていることも納得できない。
 北朝鮮の核兵器を非難する人々がプルサーマルに対して同じように反対しないことが、私には不思議でならない。放射能の危険という意味ではどちらも同じだ。北朝鮮の核兵器はボタンを押さなければ日本に来ることはないが、原発の事故は人間の意志と関係なしに起こるので予想できない。電力会社は「安全に努める」と何度も言っているが、100%の安全を保証することはできない。その確率が99.9999%であっても、長い時間の間には事故の確率はどんどん上がり続け、いつか交通事故並みの数値になるだろう。
 つまり北朝鮮の核兵器は政治的努力によって封じ込めることができるが、国内の原発事故を政治で防ぐことはできない。政治は科学技術を支えることはできても、技術の限界を超えることはできないからだ。その原発を放置しなお推進している日本政府は、実は核の危険から市民を守る気はないことになる。北朝鮮を非難しているのは政府にとってそれが利益になるからで、国民を守るためではないのだ。本気で「国」を守るのであれば、大事故1つでこの国が確実に滅びるような国内施設を何よりもまず破壊するべきであって、それ以上に重要なことはない。
 日本人は北朝鮮の核だけでなく、自らが生み出し続けている核を直視する勇気を持てないのだろうか。原発事故が起こったら死んでもしかたないと、子々孫々まで致命的被害が続いてもしかたないと、言い切れるのだろうか。そんなに愛国心のない人ばかりではないと私は思いたいのだが、どうなのだろうか。(2006/10/9)

意見・異見 一覧に戻る

最初に戻る

inserted by FC2 system