勉強のセンスをつかむ


 みんなには当然、成績を上げたい気持ちがあるでしょう。山本も何とかそうなってほしいと思うのですが、なかなかうまくいかないことが多くてもうしわけないです。
 塾では最初から「これをこんなふうに教えよう」という計画を立ててやるので、宿題の出し方に気を遣うことはあっても、ひとりひとりの家での勉強のしかたについて深く考えることはあまりありません。家庭教師になって、みんなが家で何をどのように勉強していくのがいいのかかなり真剣に考えるようになりました。前号に書いたように、何をどんなふうにどれくらい勉強するかは基本的にはみんなが自分で決めてほしいのですが、ここ数ヶ月はけっこう色々口出しをしています。もう少しみんなが自分で勉強法を考えていけるような方法がないかなと思っています。
 学問に王道なし(There is no royal road to learning.)という言葉通り、ラクをして賢くなる方法はありません。でも同じ時間をかけて勉強してもよくできる人とそうでない人がいるというのは、勉強のやり方や要領が違うということでしょう。
 山本は塾の頃から「解き直しをしなさい」「計画を立てて勉強しなさい」などとと言い続けていますが、白状すると山本自身が高校生の頃には解き直しをしたことはあまりないし、そんなにきちんと計画を立てていたわけでもありません。今入試問題を解いていても、同じ問題の解き直しをするのはずいぶん面倒くさいし続かないなあと思います。一般的には解き直しとか計画を立てるのはいいことだとされているのですが(だから勧めているのですが)、自分がやっていないことをみんなに要求するというのはある意味ではまちがっていますね。
 山本がやっていたのは、納得するまで考える、全体で覚えるということです。
 数学と物理が好きだったので、この2つはかなり難しい問題集を時間をかけて解きました。1問解くのに3日かかったこともあります。夏休みいっぱいかけて物理の『難問集』を解ききったときは本当にうれしかったです。英語は長文を読みながら徹底的に辞書を引きました。辞書が真っ黒になって友人からバカにされたりしましたが(最後には辞書が壊れた)、覚えられなくて同じ単語を何度も引くと悔しいのでだんだん覚えられるようになりました。単語だけを覚えるより、文章の中で単語を覚えた方が言葉のイメージがつかみやすいと思っていたのです。日本史の場合は通史3冊を何とか読み切り、あとは教科書に線をひきまくってひたすら読み込みました。そういう作業をサボった古文は最後まで弱いままで、今でも苦手です。
 勉強時間も特に決めていたわけではなくて、高3の春過ぎくらいまではなかなかエンジンがかかりませんでした。色々試したあげく、最終的には夜中から朝まで布団に入ってラジオを聴きながら問題を解き、学校では授業中にずいぶん寝て怒られた記憶があります。
 こんなやり方を、自分がそうだったからといってみんなに勧めるわけにはいきません。勉強の一番いい方法はおそらく人によって違うものだと思います。誰かのやり方をまねするのは、自分の方法をつくる練習としてやってみるという意味ではまちがっていませんが、勉強のできる人の勉強法が他の人にも正しいというわけでもないのです。
 みんなのヒントになるかなと山本が思うのは、具体的な勉強のしかたではなく、成績のいい人の"考え方・感じ方"です。
 おそらく成績のいい人の多くは、自分の中にある「世界」を持っていて、新しいことを学んだときに、自分の世界の中にその勉強の内容を迎え入れることができるのだと思います。
 たとえばある英単語を覚えるとき、綴りと意味だけを何回も書いたり読んだりするのではなく、その単語の持っているイメージを様々に想像してみるのです。単語を用いて例文をつくってみたり、語源を考えてみたり、その言葉があることによって自分ならどんな内容が表せるかを考えてみてもいいでしょう。そうやって自分の持っている世界の中にその言葉を組み込んでいくのです。
 数学であれば、新しい公式を学んだときに、なぜその式が成り立つのか考えるだけでなく、前に習ったどんな内容とつながっているのか、どんな問題を解くために役に立つのか、物理や科学などと関係があるのか、など色々考えてみることで、今までの自分の世界とつないでいければ、覚えることが苦痛ではなくなります。勉強が外から入ってくるものでなく、自分自身の新しい中身としてとらえられるようになれば、学ぶことが楽しくなるだけでなく、ケアレスミスなども減るでしょう。
 おそらくこういう感覚は、みんなも少しは持っているのだと思います。でも、ただ学校の勉強を漠然とこなしていくだけでは、自分の世界を広げていく意識を持つのは難しいでしょう。勉強をやらされている感覚が強い人にも、こういう認識(ものごとをとらえること)の仕方は難しいと思います。なんとか押しつけでない、みんな自身の世界を広げていくような勉強の仕方を見つけていきたいと思っていますが……やっぱり主役は山本じゃなくてみんな自身ですね。
 たまにはそんな「勉強のセンス」について考えてみるのもいいと思いますよ。(2009/2/4)

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