ケンカを防ぐ方法〜戦争について


 アメリカで同時多発テロ(9・11事件)が起きたのは、もう8年も前のことです。ニューヨークのワールドトレードセンタービルにハイジャックされた飛行機が突っ込み、ビルが崩壊し多くの人が亡くなりました。みんなはあの時のことを覚えているでしょうか。
 山本はあの瞬間をテレビで見ていて、これから大変なことになると思いました。テロそのものの被害も大きいけど、これが大きな戦争のきっかけになるような予感がしました。その通りアメリカはアフガニスタンやイラクに戦争をしかけ、今でもまだ続いています。イラクでは15万人以上がアメリカ軍に殺されました。
 戦争でたくさんの人が死んだり苦しんだりすることはみんな知っているのに、殺しあいたい人がそんなにいるはずがないのに、なぜ戦争が繰り返し起こるのでしょうか。
 アメリカがイラクに戦争をしかけたのは、イラクが大量破壊兵器(核兵器)を持っていて、国連のルールに違反しているからという理由でした。しかしどれだけ探しても大量破壊兵器は見つかりませんでした(ブッシュ大統領は辞める直前の今年の1月に、イラク侵攻が誤りだったと発表した)。独裁者と言われていたフセイン大統領は死刑になりましたが、イラクでは今でも争いやテロが絶えません。アメリカは本当はイラクの石油がほしかったのだという説もあります。
 日本は昔朝鮮や中国に軍隊を出して侵略し、多くの人を殺したり苦しめたりしましたが、これについても「アメリカやヨーロッパがアジアに攻めてきているのだから、それに対抗するために『大東亜共栄圏』をつくろうとしたのだ。当時は多くの国が資源を求めて他の国に攻め入っていたのだから、日本だけを悪者扱いするのはおかしい」と言う人がいます。自衛隊の田母神航空幕僚長がそういう内容の論文を公表して問題になったのも最近のことです。
 理由が何であれ、だから人殺しをしてもいいとは、山本は思いません。イラクが仮に核兵器を持っていたからといって、イラクの子どもを殺す理由にはなりません。大東亜共栄圏をつくるのなら、朝鮮や中国の人と相談して力を合わせていけばいいので、日本の軍隊がそこに攻めていく必要などありません。山本から見るとそういう理由は言い訳で、実際にはアメリカは石油がほしくて、日本は中国の資源がほしくて戦争を起こしたのではないかと思えます。戦争は莫大なお金を使いますが、それでボロ儲けをする人がいることも事実ですから、商売のために戦争が起こってほしいと思う人(『死の商人』と呼ばれる)も本当はいるでしょう。
 実際に戦争が起こる時には、「よくわからないけれど、そうしないとこの国が危ないような気がするから、戦争に協力しよう」という人が多いのだろうと思います。戦争に協力しないと「この国がどうなってもいいのか!」と言われたり法律で取り締まられたりするので、こわくてイヤイヤながらでも従ってしまう人もいるでしょう(戦争中の日本では、戦争に反対する人は拷問を受けて殺されたりしていました)。もう少し積極的に、国のために戦うことが国を愛するしるしなのだと考える人もいるでしょう。オリンピックなどで日本チームを応援することと、戦争で自分の国の軍隊を応援することは、感情としてはあまり変わらないのかもしれません。普段の生活の中の不満を「国が戦う」という大きな話の中で発散することもあるでしょう。「日本の戦争は牛の暴走のようだった。みんなが同じ方向に走り出すと、その中で逆らうことはできなかった」と書き残した人もいます。
 軍隊はどんな理屈をつけようと結局は戦争のための組織ですから、自分の存在価値を示すために戦争に参加してみたい、カッコイイ(ように見える)ところを見せたい、という気持ちが出てくるのは自然なことです。自衛隊がイラクに派遣されたことについて、活動の一部は憲法9条から見ておかしいという判決が出た時、さっきの田母神幕僚長は「そんなの関係ねえという状況だ」(誰のマネ?)と言いましたが、要するに軍隊は法律とか他の人の思いとかと関係なく軍隊自身のために動くのだ、と言っているようです。実際に命をかけるような現場には絶対に行かないようなエライ人がこんなことを言う資格があるかどうかさえ、山本には疑問です。
 「自分たちは戦争なんてしたくない、でも相手が攻めてきたら困るから軍隊は必要だ」と考える人はたくさんいます。戦争をしないという憲法を持つ日本に、世界5位の軍事費が支える自衛隊があることを不思議に思わない人が多いのも、自衛隊が国を守ってくれると考えるからでしょう。でもどんな軍隊があっても相手の方が強ければ攻撃される可能性は消えないし、そうやって相手より強い軍隊をつくろうとして競争になればムダなお金が増えるだけです(日本の軍事費は年間約5兆円、世界5位。因みに教育予算のGDP比は先進国中ほとんど最下位)。
 戦争につながる考え方すべてに共通するのは、相手のことを信用しないこと、自分の生活や考えを他人の命より優先させることです。戦争をする相手を自分と同じ人間として見ないで、もともと悪い人間、死んでもいい人間と思わなければ、殺し合いはできません。でも本当は、映画に出てくるような「笑って人を殺す悪党」なんてほとんどいないのです。お互いに家族や国のためを思う「いい人」どうしで殺し合いをするなんて、バカバカしいにもほどがあります。そのことを忘れないで冷静でいられるかどうか、そして人の命より大切なものはないという当たり前のことを心に保ち続けられるかどうかが、戦争を起こさないためのカギになると思います。
 山本には韓国に1人友だちがいます。ソウル旅行でお世話になった大切で大好きな人です。山本はこの人と殺し合いをすることは絶対にできないし、だからどんなことがあっても日本と韓国が戦争をすることには反対です。……これと同じように、みんなが世界中に友だちをつくればいいのです。外国の人が自分の友だちと同じ"人間"だと思えるようになったら、簡単に殺し合いをしようとは思わなくなるでしょう。
 今の日本の憲法は戦争を禁止していますが、みんなが20才になるまでには憲法が変わって「戦争をして人を殺してもいい」となっているかもしれません。山本はそうなることに反対ですが、たとえ憲法が変わったとしても、みんなが戦争で傷ついてほしくないし、逆にみんなが誰かを傷つけてほしくもありません。子どもを、人間を愛することが仕事である教師の端くれとして、山本は絶対にみんなに「戦争という名の人殺し」に関わってほしくありません。どうかそのことを、心のどこかで覚えておいてほしいです。心からお願いします。(2009/2/25)

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