だまされないように? その2


 前回の通信で「コマーシャルなどにだまされないように……」という話を書きましたが、実際にはだまそうとする人はずいぶん巧妙で話がうまいので、かなり勉強している人でもだまされそうになる場合があります。
 どうすればいいのか……というのは簡単には言えないのですが、1つ覚えておくといいことがあります。「大きな原則からはずれることは、簡単には起こらない」ということです。
 学問にはたいてい、最も基本となる法則があります。それは長い間たくさんの人が勉強してきた中で、これだけはまずまちがいないだろうと考えられているものです。その法則からはずれるような話は、いくら「新しい発見ですよ!」と言われても信用できないと思ってかまいません。もしそんな新発見があったなら、そんなふうにこっそり出てくるのではなく、ニュースなどでもっと大きく取り上げられているはずだからです。
 理科の場合でいうと、エネルギー保存の法則というのがあります。中学で習いますが、エネルギーは形を変えても全体の合計は変わらない、というものです。高いところからものが落ちるとき、位置エネルギーが減少する代わりに運動エネルギーが増加して、全体としてはエネルギーの量は変わらない、ということです。
 たとえば石油を燃やして電気をつくる火力発電では、石油の分子の中に蓄えられている化学エネルギー(原子間の結合エネルギー;原子をつなぐ"バネ"に蓄えられているエネルギー)が熱エネルギー(原子や分子が振動するエネルギー;運動エネルギーのなかまと思ってよい)に変わり、そこから水を沸騰させて膨張させ、蒸気の勢い(運動エネルギー)で発電機を回して電気エネルギーをつくります。ここまでの過程で、最初の化学エネルギーの量と最後にできる電気エネルギーの量は等しくありませんが、それはエネルギーが形を変えるたびに一部が熱として逃げてしまうからです。(エントロピー増大の法則といって、これも重要な法則ですが高校では習いません)途中で発生する熱エネルギーまで含めて考えれば、エネルギーの合計は一定になります。
 エンジンにしてもモーターにしても、外から燃料なり電池をつけないと止まってしまいます。昔の人は「燃料や電池を使わずに、ずっと動き続ける仕組みを作れないか」と考えました。これを永久機関といいますが、どんなにうまい仕組みをつくってもエネルギー保存の法則に反するものはつくれなかったのです。これからも永久機関は作れないでしょう。
 このように「この原則はまずまちがいない」というものを知っておくことは、オトナになってからも役に立ちます。生物について言えば「生物はエサを食べてその中の化学エネルギーを利用するか(主に動物)光のエネルギーを利用するか(緑色植物)して生き、なかまを増やす」というのが原則です(だから暗いところでは植物は生えないし、どんなところに住んでいる動物でも必ずエサを食べている)。他には質量保存の法則(何もないところからものができたり、あったものが消えたりはしない)から、たとえば幽霊のように「霊のエネルギーがものになる」ということもないことがわかります。
 英語や国語にだって、そういう原則があるのです。言葉というのは人間の考え方を表したもので、たとえば主語と動詞をはじめから明らかにする英語は「誰が何を言っているか」にこだわり、主語を省略でき結論を最後に持ってくる日本語は「みんなの中で自分がどうするのか」にこだわります。欧米と日本との文化の違いから来る言葉の組み立て方のルールがわかると、「英語でこういう言い方は絶対にない」とかいうこともわかります。
 社会科の場合なら、たとえば「世の中の見方は人によって異なり、誰の立場に立つかで見方が決まる」ということがあります。日本のタンカーをソマリアの海賊から守るために自衛隊を派遣することが決まりそうです(山本はMさんが行くことになったらと思うと本当に心配です)。日本のある政治家は「海賊は人類共通の敵である」と言いました。これは日本の立場からすれば正しいでしょうが、世界有数の貧しい国に住み泥棒でもしなければ食っていけないソマリアの人たちからすれば、正しいとは限らないでしょう。日本や世界の歴史にしても、今の世の中のあり方にしても、立場によってさまざまな見方ができます。そういうことを忘れて「他がどうだろうと自分(の見方)が正しい!」と思いこむと、とんでもないまちがいをしてしまうかもしれません。
 原則を知っているだけで絶対だまされないですむというわけではありませんが、たいてい大きなまちがいは避けることができます。だまされないためだけで勉強するのは情けないと前号で書きましたが、このような"原則"は世界を理解するためのカギでもあるので、わかっておいてほしいです。
 あとは「誰かを信じるのではなく自分で考える」ことです。どんなに賢い人でもまちがえることはあります。誰かの言うことを鵜呑みにして失敗すると、誰かを恨んだり後悔が残るかもしれません(山本にもそういう後悔はあります)。自分で考えて自分で決めるというのは日本ではかなりしんどいことですが、結局は人生のどこかでそうしないと幸せにはなれないように思います。
 知識や技術は、人間が使うためのものです。先に書いたような法則や原則も、みんながこれからよりよく生きていくためのものでしかありません。勉強をこれから役に立てられるかどうかは、みんなの生き方次第です。「勉強なんて役に立たないよ」と言っているオトナは、勉強を丸暗記の固まりだと思わされてきたか、または勉強を自分の役に立てるための努力をサボっているだけです。みんながそうならないように、自分で考えて生き方を決めていく楽しさや面白さを知ってもらえるように、いい勉強を教えていきたいです。……またそういうオチ?(2009/3/18)

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