Natural scienceへの誘い


 4月になりました。新しい学年です。
 高3になる人は、とにかく受験生です。この1年は人生の分かれ道になるかもしれません。勉強にしても今までの総決算になります。まだまだ山あり谷ありでしょうが、目標をめざして努力してみてほしいです。あと1年もありませんが、山本もできることをしていきたいと思っています。
 高1・高2になる人は、まずは新しい学校や学年に慣れることです。高校は中学と違うところがいくつかあるので、入学当初はかなり戸惑うかもしれません。高2も高1より勉強量が多くなるしクラブも忙しくなるので、今まで以上に時間の使い方を工夫する必要があります。やることがたくさんあって大変でしょうが、その分だけ成長できるし、楽しいことや感動することもあるでしょう。はじめからうまくはいかないかもしれませんが、焦らずに自分のペースをつくっていってほしいです。
 さて、山本はみんなに主に数学と理科を教えています。この2つの科目はまとめて「自然科学(Natural Sceince)」と呼ばれます。自然科学とは、人間の考え出した何かではなく、もともと自然にあったものについて考える学問ということです。三角形の内角の和が180°になるのは法律で決まっているわけではなく、誰がどこで三角形をかいても必ずそうなります。クモの脚が8本あるのも誰かが決めたのではなく、最初からそうなっているからです。そうやって直接見てわかることから出発して、理屈を使って法則や公式を積み上げながら新しいことを見つけ出し、人間の"見える・わかる世界"を広げていくのが、自然科学の目標です。理屈がわかる人なら、どんな年のどんな国のどんな考えの人でも同じように考えていけるのが、自然科学のいいところです。数式や化学反応式はどんな国の人にも通じる「万能語」なのです。
 みんなは理科や数学で新しい理屈や公式が出てくると、なんでこんなものをいちいち勉強しなければならないのか、意味があるのかという疑問を持つことがあるでしょう。山本にそんな疑問をぶつける人もいますが、それはいいことだと思います。
 今の数学や理科は数千年の時間をかけて、たくさんの人が悩みに悩み抜いて考え出された理屈や法則や体系のかたまりですが、それらには全部意味があります。
 たとえば高1の最初に出てくる展開や因数分解の公式は、これから出てくる色々な関数や方程式を変形して答を出したり違う見方をするための道具です。高1で習う背理法は、普通の方法では証明できない(本当かどうかわからない)ことを証明し、これによって新しい法則がたくさん見つけられました。大学で習うような本格的な数学には一見意味のないものが出てきますが、それらにしても理屈によって積み上げられたものには変わりありません。
 中学の理科で植物の分類を習いましたが、例えば「双子葉類は葉が網状脈で花びらは4枚か5枚」ということを知っていれば、外国で知らない植物を見た時でもそれが双子葉類かどうか一目でわかります。また植物の葉が緑色なのは太陽の光の中で赤い光を主に吸収し緑の光を反射するからなので、他の星に行って植物らしきものがあった時に葉が全部赤色ならば、逆にこの星の植物は緑色の光を吸収しているのではないか……と推測できます。もちろんここから実験などをして証明しなければなりませんが、このような最初の考えが浮かぶかどうかは非常に重要です。
 昔、ヨーロッパで錬金術というものが流行したことがありました。金は大変値打ちがあるので、鉄などの安い金属から金をつくることができないかと考えて、たくさんの科学者が「金でないものから金をつくる」実験に熱中しました。結局これはできないことがわかったのですが、実験を試みる中で塩酸や硫酸など今でもよく使われる薬品が発見され、また蒸留など多くの実験法が発明されました。実験には失敗もありますが、失敗にも意味はあります。「こういうことをやってみたができなかった」という記録は、次に同じ問題を考える人にとっての重要なヒントになるし、色々な実験を試してみる中で新しいことが見つかる場合もあります。これは数学でも同じです。みんながある問題を解いてみてできなかったとしても、そこから何かを学び取れることがあるのです。結果だけにとらわれず、理屈で考えることの楽しさを味わえるようになったら、みんなも自然科学の面白さをわかってきたということでしょう。
 今の世の中で、数学や理科と関わっていないものはありません。携帯電話をつくるには膨大な数学と理科の知識や技術が必要です。自転車をつくるのだって、数学や理科の知識が山ほど使われています。簡単に食べ物を買えるのだって、理科の力で食物を安価に大量につくることができるようになったからです。そういう世の中で生きていくみんなにとって、自然科学の知識や考え方を持っておくことは必ず役に立ちます。特にこれからは今までのように、何でも便利に手に入って生活できる、みんなと同じようにやっていけばなんとかなる、という世の中ではなくなってくるかもしれません。そういう時こそテストや入試のためではない「本当の学力」が試されるのです。看護師や教師、理学療法士のように仕事で自然科学が直接必要になる人も、資格を取るためだけではなく、仕事の中で活かしていけるような勉強、一生続けていけるような面白い勉強を、高校生のうちに経験してほしいと思います。みんなになんとか少しでも、そういう機会を提供していきたいです。
 今年もよろしくお願いします。(2009/4/1)

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