高校で理科を学ぶこと


 みんなにとって、高校で勉強している理科とは、どんなイメージでしょうか。
 高等学校理科教員実態調査というのがあって、高校の理科の先生から聞き取りをした調査の結果が発表されています。簡単に結果をまとめてみると
  • 授業について「日頃から力を入れて取り組んでいる」という教員は普通科高校では約7割で、中学校理科教員の約5割より高い。
  • しかし「実験の手順を生徒に考えさせている」「生徒に自分の考えを発表する機会を与えている」という教員はともに1割未満。また生徒による観察や実験を週1回以上実施している割合も約1割で、小中学校で6〜8割であるのに比べると極めて低い。
  • 理科総合A、Bなどの授業を生徒の60%以上が好きだと感じていると回答した割合は約1割で、小中学校の教員での4〜8割を大きく下回っている。
  • 観察や実験を行うにあたって障害となることは「授業時間の不足」「大学入試への対応のための指導に時間を取られる」という時間の不足や「設備備品の不足」をあげる教員の割合が高い。
  • 学校あたりの理科の設備備品費は普通科全国平均が年間約32万円(高校生一人当たり407円)であるが、0円という学科も約3割存在する。また生徒一人当たりの消耗品費は510円であり、生徒による観察や実験を実施するには厳しい。
 先生にはやる気があるけれど、生徒に考えさせたり実験させたりはしていない。生徒が授業を好きだとも思っていない。その理由は時間が足りないこと、大学入試のために授業をどんどん進めなければいけないこと、そしてお金が足りないこと…… というところでしょうか。ちょっと言い訳っぽくも感じますが、高校の先生の気持ちは実際こんなところかもしれません。高校生が実験をするのに1年1人500円というのも安すぎますね。私立の場合はもう少し予算があってゼイタクに実験できるところもありますが、日本はこのへんが貧乏です。
 山本も昔高校で理科を教えていましたが、生徒に実験をさせるのは大変でした。私立なので設備は十分あるのですが、準備は大変だし、実験するほど時間がかかって授業が遅れていくので焦る気持ちもありました。生徒は実験をすると喜ぶのですが、実験が楽しいというより「退屈な授業を聞かずにすむ」のが楽しいように見えることもあって、複雑でした。
 さて、ここまでにあげた調査結果は普通科高校の場合です。高校には普通科の他に、理数科という理科や数学に力を入れているコースもあります(このあたりでは香住ヶ丘や新宮)。また普通科でも、文部科学省から指定を受けて「スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)」になると、理科や数学に特別に力を入れた授業をしています(現在福岡県のSSHは小倉と修猷館)。
 たとえば教科書の内容にしばられず自由にテーマを選んで課題研究をしたり、大学の先生を呼んできて高校生向けの講義(授業)をしてもらったり、大学や研究所に行って見学や体験授業をしたり、自分で研究したことをまとめて研究発表をするわけです。こういうことは"普通"の普通科ではほとんど行われていません。さらに理数科やSSHでは学校の先生も、普通科の先生と比べて大学などで勉強する機会が多くなっています。
 さっきの調査では最後に
 高等学校段階における将来の優れた科学者や技術者の人材育成を目指した教育活動を提供する拠点として、理数科やSSHが各地域で重要な存在であることがわかります。
と書かれています。 ……このことについてみんなはどう思いますか。
 明らかなのは右のグラフを見てもわかるように、理数科やSSHの授業が他の高校と違いすぎるということです。SSHは日本中に101校あり、これらの学校に国から1校あたり約1400万円出ています。これだけ予算があればずいぶん色々なことができるでしょう。その分先生の負担も大きくなるでしょうが、やる気のある先生にとっては働きがいのある環境に決まっています(山本だってやってみたいです)。
 理科が好きだからといって誰でも理数科に行けるわけではありません。香住ヶ丘も新宮も入りやすい高校ではないので、成績が悪ければ無理です。ましてSSHは修猷館も小倉も県内の最難関です。他の県でもSSHはいわゆる難関校が多く、もともと難しくて人気もある高校がさらにハクをつけるような結果になっています。こういうのも格差と言うのでしょうか。
 調査結果にあるように、これらの学校が「将来の優れた科学者や技術者の人材育成」をめざしたものだとしたら、たしかに普通の高校より恵まれていていいのかもしれません。すぐれた科学者や技術者はそんなにたくさんは出てこないでしょうから、今より多くの学校にそこまでお金や手間をかける必要もないかもしれません。
 しかし理科は、一部の科学者や技術者だけのためのものではありません。民主主義の世の中なのですから、科学のあり方については世の中のすべての人が考えて判断する必要があります。頭のいい人の言いなりになって任せておけばいい、というわけにはいかないのです。
 また高校入試の時に成績が悪いからといって、その人に科学者や技術者になる才能がないとも限りません。特に実験のやり方を考えたり自分の考えを発表したりするのは、将来どんな仕事をするときにも役に立つ大切な勉強です。入試があるからといってそういう勉強をサボってしまっているとしたら、大学入試はいったい何のためにあるのかということにもなります。……山本はそんなふうに思うのですが、みんなもこんな世の中のあり方についていつか考えてみてほしいです。

 1人1人にメッセージ
(2009/4/17)

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