脳死移植について考える


 人間には心臓や肝臓や肺など、ないと生きていけない臓器がいくつかあります。
 こういう臓器が病気になって治せなくなったとき、昔は諦めるしかありませんでした。今でもガンなどでは無理なのですが、病気によっては他人の臓器を移植すれば助かる場合があります。誰のでもいいというわけではなく、血液型などが合わないといけないのですが、一番の問題は誰が臓器をあげるかです。
 肝臓や肺は一部分でも機能するし腎臓は2つあるので、家族など近い人の臓器の一部を切り取って移植する方法(生体移植)があります。でも家族の臓器が適合しなかったり、心臓のようにまるごと1つないと生きていけないものの場合、亡くなった人の臓器をもらうしかありません。 ……みんなは自分が死んだ時、自分の心臓を誰かにあげたいと思いますか?
 お医者さんは普通、心臓が完全に止まったことを確認して「死亡宣告」をします。心臓が止まると血液が流れなくなるので、他の臓器は痛み始め、臓器移植をしてもうまく働きにくくなります。
 一方、心臓や肺のはたらきが一時的に止まって脳に5分以上酸素がいかなくなると、それから心臓が再び動き出してももう脳の働きが戻らず、呼吸をしていても意識が戻らなくなる場合があります。これを「脳死」と言いますが、この場合は心臓は動いているので臓器移植が成功しやすいのです。日本では12年前に「本人が書面で意思表示しており、しかも家族が同意している場合に限り、脳死患者からの臓器移植を認める」という法律ができました。
 脳死といっても心臓は動いているし体は温かいし反射的に体が動くこともあるので、家族にとって「この人はもう亡くなりました」と言われても納得できないことが多いでしょう。一方移植を待っている人から見れば、命を助けるためにぜひ移植させてほしい、という気持ちでしょう。
 脳死移植についての意思表示は、ドナーカードというものに記入することになっています。自分が脳死状態になってからでは意思表示などできないので、元気なうちに意志を書いて持っておくのです(山本は持っています)。これは郵便局や市役所、保健所、コンビニなどにおいてあります。裏には次のような選択欄があり、1・2・3のどれかを選ぶようになっています。
  1. 私は脳死の判定に従い、脳死後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。
          ( 心臓 ・ 肺 ・ 肝臓 ・ 腎臓 ・ 膵(すい)臓 ・ 小腸 ・ 眼球 ・ その他(  ))
  2. 私は、心臓が停止した死後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。(以下1と同じ)
  3. 私は、臓器を提供しません。
 法律ができてからの12年間に亡くなった人の中で、このカードを持っていることが確認されたのは約1600人しかいません。自分に臓器をあげてもいいという気持ちがあっても、カードがなければ移植はできません。また15才以下の人はカードを持てないので、オトナの臓器では合わないような子どもの場合、日本では移植は不可能です。ですから心臓病の子どもは外国に行って脳死移植を受けるしかないのですが、莫大なお金がかかる(博多駅前で募金をしているのを時々見ます)上に、子どもの臓器を売買する犯罪を防ぐため「移植のための海外渡航は認めない」という決議が国連で採択されることになっていて、どうしようもなくなってしまいそうです。
 そこで国会で、脳死移植について新しい法律をつくろうという話し合いが行われています。この間衆議院で「脳死患者について、家族の同意があれば、ドナーカードがなくても(15才以下でも)移植を認める」という法律案が過半数賛成で可決され、月末には参議院で審議が始まります。この法律ができれば、本人の意志は関係なく脳死移植ができることになります。
 臓器移植を待っている子どもからすれば、これは大きな前進です。もしこれで外国の子どもから臓器を買い取るようなこと(意味わかりますか?)が減るとしたら、それだけでも大きな意味があります。一方で子どもの場合"脳死"から回復する例もないわけではなく、また脳死を「死」とするとそこから先は健康保険が使えなくなるので、お金が払えないために人工呼吸装置をはずして呼吸を止める……ということも起こりかねません。親からすればやりきれないでしょう。
 人間が死ぬというのは、生物としての活動が止まるという意味だけではありません。どんな状態が「完全に亡くなった」ということなのかを決めるのは、その人自身と家族の問題です。自己決定権と言いますが、それは人間の生き方に関わる問題です。臓器移植を(あげる方ももらう方も)認めないという宗教もあります。……今までの日本ではこのようなことはほとんど考えられてきませんでした。学校でももちろん教えていないでしょう。みんながどんな「死に方」を望むか、自分が親になった時子どもが心臓病になったらどうするか、いつか考えてみてほしいです。(2009/6/23)

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