プルサーマルが来る


 佐賀県の玄海原子力発電所で今月から『プルサーマル計画』が行われることになっています。
 原子力発電はテレビでコマーシャルを時々やっていますが、みんなは学校では原子力についてはほとんど習いません。ここでは原子力発電について説明してみましょう。
 原子はまん中にある原子核と、その回りにある電子からできています。原子核は+の電気を持つ陽子と、電気を持たない中性子からできています。陽子の数は酸素原子は8個、鉄原子は 26個というように、原子の種類によって決まっています。
 ところでものを燃やすと熱が出ますが、これは原子と原子の結びつき方が変わるからです。水素を燃やすと酸素と結びついて水ができ、その時に音や熱が出ますが、これは最初の水素原子どうしや酸素原子どうしの結合エネルギーが大きく、水分子の酸素原子と水素原子の結合エネルギーが小さいために、減った分のエネルギーが熱として外に出されるためです(ゴムをピンと伸ばして弾性エネルギーを大きくしてからから手を放すと音が出るのと同じ)。
 原子核の中の陽子や中性子は普通は離れませんが、それは陽子や中性子が非常に強い力で互いに引き合っているからで、つまり力がかかっているという意味では「ピンと張ったゴム」と同じです。ですからなんとかしてこの陽子や中性子の結合をはずせば(=ゴムから手を放せば)、水素を燃やすよりはるかに大きいエネルギーが出るはずです。つまり原子核を「こわせば」熱が出るのです。
 原子力発電ではウランという金属を主に使いますが、この原子は原子核が非常に大きく、不安定でこわれやすくなっています。そこでウランをギュウギュウ詰めにして(濃縮して)おくと、原子核が自然に壊れて中性子を出します。中性子は他の原子核にあたってこわし、そこからまた中性子が出ます。その繰り返しでどんどんウランの原子核が壊れて別の原子になっていき(核分裂連鎖反応)、その時に大量の熱と放射線が出ます。原子力発電はこの熱を利用して電気を作っているのです。
 放射線には原子核のこわれた破片(α線)や高速の電子(β線)、また光の仲間である電磁波(γ線)があり、中性子を含めていずれも他の原子をこわしたりするので有害です。このような放射線を出す物質、あるいは出てくる放射線の強さを「放射能」と呼んでいます。原爆や水爆などの核兵器はこの連鎖反応を瞬間的に起こし、大量の熱と放射能をまき散らします。
 ウランは原子炉の中で反応していくうちに別の原子になっていくのですが、その1つにプルトニウムという原子があります。プルトニウムも中性子にあたるとこわれて熱と放射線を出すので、原子力発電の燃料として使えそうなのですが、これはウランと比べて核分裂反応が激しく制御が難しく、「暴走」する危険が大きいのです。現在はこのプルトニウムなど反応が終わった物質は放射性廃棄物として扱われ、地中深く埋められることになっていますが、プルトニウムは出る放射線が半分になるまでの時間(半減期)が2万4000年(!)もあり、その間に地震などで地上に放射能が漏れてくる危険性もあります。
 プルサーマルというのは、このプルトニウムを最初からウランに混ぜて(MOX燃料)、原子炉の燃料として用いることです。コマーシャルで「燃料のリサイクル」と言っているのは、ウランを反応させて出てきたプルトニウムをもう1度原子炉に入れて反応させるという意味で、日本でプルサーマルが行われるのは玄海が初めてになります。今の発電所の設備はプルサーマルをする前提では作られていないので、これは一種の「実験」だと言う人もいます。
 原子力発電所で一番怖いのは、この核分裂反応が制御できなくなって暴走し、原子炉が爆発することです。今から23年前にソ連(今のロシア)のチェルノブイリの原子力発電所が事故を起こし、広島型原爆400個分の放射能が放出され、数万人が死亡し、今でも放射能の影響でたくさんの子どもが病気になっています。狭い日本で同じような事故が起こったら、この国は冗談抜きで滅びるでしょう。特に玄海発電所は福岡のすぐとなりで、放射能を含んだ風が偏西風にのってまともに飛んでくるので、ここで大事故が起きたらおそらくみんな助かりません。
 ですから原子力発電所では事故が起きないように何重もの安全策をとっているのですが、人間のすることに絶対はありません。発電所も商売ですから、安全だけを目標にしてやっていくことはできません。また発電所の現場で働く下請けの人に放射能の被害が出ているという話もあります。さらに前に書いた放射性廃棄物をどこにどう埋めて誰が(数万年も?)管理するのか、まだ決まっていません。原子力発電はCOを出さず温暖化を防ぐというコマーシャルもありますが、実は「運転時に出さない」と言っているので、発電所の建設や廃棄物の処理で使うエネルギー(ここでCOが出る)まで考えると、本当に温暖化を防げるのかどうか何とも言えないのです。
 そのような事情で、原子力発電に反対する人はたくさんいます。今までよりも危険の大きいプルサーマル発電に反対して、署名を集めたり座り込みをしている人もいます。これはもちろん佐賀県だけの問題ではないのですが、すぐとなりの福岡県でも関心を持つ人はあまり多くありません。いいのでしょうか。
 この問題は、「原子力発電の安全性(危険性)をどう考えるか」と「これからのエネルギーをどうするか」という2つの点から考える必要があります。電気やガソリンなどエネルギーを使いまくっている今の私たちの生活を守るために、長い将来に渡って危険が続くかもしれない原子力発電に頼っていいのかどうか、これからのエネルギーの使い方をどうしていくべきなのか、それは若いみんなが考えなければならない大切な問題です。勉強ってそのためにも必要なんですよ。

 1人1人にメッセージ
  • 数学は少しずつカンがつかめてきましたが、まだ入試の中でよく使うテクニックの習得が不十分です。できる限り教えるので、なんとかものにしてほしいです。あと3ヶ月です!
  • 化学と物理のUがどうも心配です。難しいけどわかれば面白い単元が並んでいるので、通り一遍でない「本物の理解」をしてほしいです。必要があればまた授業をするので言ってください。
  • バイト忙しいですか。試験がうまくいっているといいのだけど……これからどうするかもまた考えていきましょう。今のあなたにとって大切なことが何か考えてみてほしいです。
  • 要領よく勉強する方法も考えたいですが、やっぱりもっと勉強に時間をかけるべきだと思います。集中して1つ1つをしっかりこなすにはどうするか、考えてみてほしいです。
  • 数列はやっぱりちょっと難しいかな。4ステップを解き切れたらよかったのだけど。今よりもう少し目標を意識して、高いところをめざしてやっていけたらいいかな、とも思います。
  • 今回のテスト勉強がどうだったか、またテストの結果をどう感じるか、君自身がしっかり振り返ってみてほしいです。これからどうしていくのか「決断」する時なのかもしれないよ。

(2009/10/6)


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