パワーをどこから得るか


 恥ずかしい話ですが、山本は小さい頃ぜんそく持ちで体が弱く、小1のときは2ヶ月近く学校を休んで遠足にも行けませんでした。
 義理のお母さんはなんとか体を丈夫にしようとして、朝から乾布摩擦(上半身裸になって乾いたタオルでこする)をさせたり、アパートの11階から1階まで走って往復させたり、ニンニクの薬を飲ませたりしました。おかげで体は丈夫になり、小6の時には皆勤賞をとりました(なぜかあまりうれしくなかった)。
 それでもまだ「体を鍛えなさい!」と言われて、小5のときスイミングクラブに半年通いましたが、いっこうにうまくなりませんでした。水泳部にも入りましたが、こちらは友だちややさしい美人の先生(?)がいたので楽しく、6年生の時には試合にも出られました。
 中学校に入ると今度は「チームプレーを覚えないといけないから、そういうクラブに入りなさい」と言われて、サッカー部に入りました。走るのが遅いしボールを蹴っても遠くに飛ばないし、3年間ほとんど試合に出られず補欠で過ごしました。練習がそんなに辛いとも思いませんでしたが、楽しくはなかったです。高校ではバレーボールをやりましたが、途中でひざをケガしたりでやはりほとんど試合には出られず、試合で自分のチームが勝ってもそんなにうれしくありませんでした。今から考えると本当にバカみたいですが、面白くなかったのです。
 親は親なりに色々考えて「こうしなさい」と言っていたのだし、そのおかげで体力や根性(?)がついたのもまちがいないのですが、無理やりスポーツをやらされていくうちに、山本の心からは「スポーツは楽しいものだ」という感覚がなくなっていきました。体を動かす楽しさを味わえるようになったのはずいぶん後(オトナになってから)のことで、学生のときあれだけ練習していたのはいったい何だったんだ、スポーツを嫌いになるためにやっていたのかと思った記憶があります。
 誰かに言われてイヤイヤ何かをやっても、そのことを好きになるのは難しいのではないかと思います。好きでなくても長い間やっていればある程度力はつきますが、面白さや楽しさを味わえないまま続けていくのは大変だし、オトナになってからそれが本当に役に立つとも限りません。
 山本の親は体のことにはそれだけうるさかったのに、不思議と「勉強しろ」とは言いませんでした。高校も大学もどこに行けとは言わず、自分で決めさせてくれました。塾にも予備校にも行かずに自分で計画を立ててやっていたので、面白い問題をとことん追求したり、暗記法を色々工夫したりできました。しんどいこともありましたが、勉強を嫌いにならずにすんだことは山本の最大の財産です。もし親がうるさく勉強しろ!と言い続けていたら、勉強の面白さがわからなくなって、どこかで挫折していたかもしれません。
 勉強する理由は、人によって違うでしょう。大学に行くために勉強するというのはもっともらしい理由ではありますが、入試があるからイヤイヤ勉強するというのでは、山本の"やらされていた"スポーツとさして変わりません。また親御さんや山本がうるさく言うから仕方なしに勉強するというのも、先のことを考えればいい方向に思えません。だいいちそんな理由では、やってみよう!という心の底からのパワーは出てこないでしょう。オトナの後押しだけで何とかなるほど大学入試が甘くないことは、"決戦前"の3年生2人はよくわかっているはずです。山本も無理やり誰かに勉強を教えたくはありません。自分が親から押しつけられたことの結末を覚えているからです。
 みんながもしやりたくないことイヤイヤやらされているのだとしたら、そこから抜け出す道はおそらく「自分が本当にやりたいことを見つけて突き進む」ことしかありません。この通信にあげたキュリー夫人や野口英世やトロツキーだって、みんな自分の道を突き進んだ人です。教師になりたい人、CAになりたい人は、その将来の夢が"パワー"をくれるなら、入試勉強がしんどくてもやり通せるはずです。ホテルで働きたい人は、そのために必要な勉強なら誰から言われなくてもがんばれるでしょう。具体的な夢を持てなくても、数学が好きだからもう少し勉強してみたいとか、この学部で実験してみたいとか思えるなら、そのために今の勉強にどう取り組むか、これからどんな勉強をしていけばもっと面白くなるか、オトナと相談しながら工夫していくこともできます。山本はそういう相談に何度ものってきましたが、夢を語ってくれる生徒と話すのはとても楽しいものです。
 高校生がしなければならないのは学校の勉強だけではありません。自分がどんな人間なのか、何をしていきたいのか、そのためにどんな能力や訓練が必要なのかを考えなければなりません。
 それは何よりも前ページでトロツキーが書いているように、「人生を精一杯楽しむ」ために必要なことです。人間が生きていくというのは、ただ食べて寝るだけのことではありません。自分の中に眠っている才能を掘り起こして、それを世の中で活かしながら生活できるように自分をつくりあげることが、人間として一番幸せなことなのです。そして自分の才能を見つけた時の楽しさ、うれしさは言葉では言い表せません。みんなにもその感覚を味わってほしいです。そして山本があなたたちの才能を掘り起こす手伝いができるのなら、それが山本にとっての幸せなんですよ。
 勉強するための「パワー」を、自分の中に見つけてほしいです。きっとどこかにあるのです。(2009/11/4)


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