何が一番大切か


 久しぶりに妻と映画を見てきました。『日本の青空U いのちの山河』という映画です。
 今から50年くらい昔、お医者さんのいない岩手の山奥の山村で、老人と乳幼児の医療費無料化を全国ではじめて実施し、年間乳幼児死亡者をゼロにした村の話です。
 昔の雪国では、冬は雪が積もって車も通れず、貧乏な人が多くて病気になっても医者にかかれず、亡くなってから死亡診断書をもらうためにはじめて村を出て病院に行く、ということもあったそうです。赤ちゃんも栄養不足で病気になりやすく、日光に当てないためくる病(ビタミンD不足によって起こる骨の曲がる病気)も多く、1才にならないうちに亡くなる赤ちゃんが1割近くいました(現在の20倍以上)。家に迷惑がかかるといって自殺する病気のお年寄りも多かったのです。「豪雪・多病・貧困」の三重苦と言われていました。
 村長になった深澤晟雄さんは、大学に何度も頼み込んでいいお医者を呼んだり、大金をはたいてブルドーザーを買ってバスが通れるようにしたり、保健婦さんが家を回って育児法を教えるようにしました。それでもお金がなく医者にかかれない人が多かったので、病気で亡くなる人がなかなか減らなかったのです。医療費を無料にするのは当時の法律では違反だったのですが、深澤さんは
 「憲法では『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』(25条)とされている。少なくとも憲法違反にはならない。国がやらないから、村がやるんです!」
 と言って、県の反対を押し切って赤ちゃんとお年寄りの医療費を無料化し、おかげで大勢の人が医者にかかれるようになり、赤ちゃんの死亡数も激減しました。ガンで亡くなった村長さんの遺体が村に帰ってくるとき、村の人たちが大勢集まって車を迎えるラストシーンでは、妻と一緒に大泣きしてしまいました。
 お金のない村で医療費をタダにするのは、本当にやりくりが大変だったでしょう。いいことばかりではないだろうし、"オトナの駆け引き"もあったかもしれません。それでも深澤さんのおかげでたくさんの人の命が救われたことは、事実です。
 今の日本でも、中学生までの医療費を無料にしているところ(東京など)があるし、宗像市でも3才までは無料です。これは深澤さんのやったことをみんなが認めたという面もあるでしょう。でも不景気で健康保険料を払えず、医者にかかれなくなっている人が増えているし、お年寄りの医療費は財源がないこともあってなかなか無料にはできません。
 8月の選挙で政権が自民党から民主党に代わり、これから政策が色々変わりそうな中で「医療費を全員無料化にしよう」という意見があります。「医療費が無料になるとなんでもない小さなケガや風邪でもみんな医者に行くので、お医者さんが働き過ぎになって過労死したり、本当に重症の人が待たされて治療をしっかり受けられなくなる」という反対意見もあります。
 ここ数年の日本は「競争に勝った者がたくさんもうけて幸せになる」という考え方が強かったと思います。一方で「お金をみんなで分けて、どんな人でも(勝ち負けに関係なく)最低限の生活ができるようにする」という考え方もあります。これからのこの国で何が一番大切なのか、みんなにも他人事ではありません。考えてみてほしいです。
 ※この映画は来年2月から、また福岡市内で上映されます。詳しいスケジュールはホームページを見てください

 1人1人にメッセージ (2009/12/2)

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