愛情とおせっかいの間


 大阪の塾で教えていたとき、とてもよくできる小6の男の子がいました。まじめで教師の言うことをよく聞くし、質問をすれば率先してハキハキしゃべるし、宿題もサボらないし、だから成績もいいし、塾の先生の間では「○○君は将来有望だね」という話がよく出ていました。
 お母さんはとても教育に熱心な人で、面談すると「うちではこんな本を読ませています」「ちゃんと家事の手伝いもさせています」「親の言うことは何でもよく聞いていい子なんですよ」などとおっしゃっていました。その時なんとなくイヤな予感がしたのですが、まさか……と思っていました。
 中1の夏休みに、その子は突然塾をやめてしまいました。やめた理由は聞けなかったのですが、どうしたんだろうと思ったまま時間が過ぎ、半年後、中2の春になってまた突然塾に戻ってきた彼を見て、びっくりしました。なんと見事なとんがった茶髪。あの優等生君が?
 授業態度も前とはまるで変わっていて、退屈すると「この授業つまんねー」とか大声で言うし、宿題なんて全くしないし、ここまで別人になれるものかと驚きました。一体何があったのか彼に聞いてみてもあまり要領を得なかったのですが、「お母さんがうるさかった。あのままやっていくのがイヤになった」と言っているようでした。優等生に疲れてしまったということでしょうか。
 勉強が嫌いになったわけではなかったので、彼のクラスではとにかく面白い話や実験をたくさんしました。「分子の並び方はね、固体は授業中のみんな、液体は休憩時間、気体は塾が終わって帰るときのみんなのことだよ」と説明した時「先生うまいねえ〜」と感心していたのを覚えています。
 彼はその後あまり偏差値の高くない高校に行きましたが、塾には通い続けて、山本とたまに会うと「オッス、先生!」と元気よく挨拶をしてくれました。大学入試がどうなったのか知らないのですが、小6の時から考えればおそらくそんなに偏差値の高い大学にはいけなかったでしょう。でもそこまでの彼の生き方がまちがっていたのかどうか、何とも言えません。

 山本は親ではないので、子育ての大変さはわかりません。親が自分の子どもを思う気持ちは、親でない人にはとても想像できないでしょう。生まれたときから長い間世話をし愛情を注ぎ大切にしてきた子どもを心配して、あれこれと口うるさく注意したり何でも指示したり、子どもができることでも先回りしてやってあげたり、子どもの将来の道まで親が決めてしまうのだって、子どものためを思ってやっているに決まっています。
 でも子どもは、オトナの操り人形ではありません。赤ちゃんは全部オトナが世話をしなければ生きていけませんが、成長するにつれて色々なことが自分でできるようになります。いつかは一人前になって巣立っていくのだから、自分でできることを増やしていかなければなりません。親や教師の方が経験があってまちがいがないからと言って、子どもができること、できるようになるべきことまでオトナがやっていくのは、結局子どものためにはならないでしょう。
 山本がみんなを教えていて、時々「待ってください!」と言われます。解けそうだから自分でやってみたいというのは、とても大切なことです。学校の授業ではみんなが自分で解くのを先生が待っていてくれないこともあるでしょうが、時間がないせいとはいえみんなを「赤ちゃん扱い」しているのと同じです。家庭教師もそんなに時間はないのですが、みんなが自分で考えてできることはできるだけ自分でやってほしいと思っています。
 最初に書いた彼が"不良"みたいになったのは、自分がお母さんの手から離れて、色々なことを自分で決めてみたいという気持ちの表れだったのかもしれません。茶髪がいいとは思わないけど、そうでもしないとお母さんから"離れる"ことができなかったのかもしれません。問題は髪の毛の色ではなくて、自分にふさわしい髪の色を決める力を身につけることです。学生時代にどれだけ「いい子」だったからといって、自立する力がなければオトナとしてやっていくことはできません。
 みんなももうすぐオトナになります。自分の歩いていく道を決めて、そのために必要な準備や努力をして、一人前のオトナとしてやっていくための色々な能力を身につけてほしいです。そんなこともたまには考えながら、勉強していきましょう。来年もどうぞよろしくお願いします。

 1人1人にメッセージ
  • 学校と予備校での冬期講習お疲れさまです。不安だろうけどここまで土台は作ってきたのだから、あとは積み上げていくだけです。1日1日を大切に、前だけを見てやってほしいです。
  • やることがたくさんある時ほど、順序を決めて計画を立ててやっていくべきです。自分で自分をコントロールする力を身につけるまたとないチャンスです。しっかりやれば大丈夫だよ。
  • 年末は忙しいかな。残り少ない高校生活を楽しんでほしいです。英語も勉強してほしいけど……あなたが自信を持って次のステップにいけるようになったらいいなと思っています。
  • もうすぐ数Uも終わりです。あとは模試に向けて復習をしていきましょう。学校の問題集は悪くないのでがんばって解いてみてほしいです。わからないところは説明します。がんばろうね。
  • 積分が終わればもう新しいところはないので、そろそろ腰を据えて復習をやっていきましょう。問題集難しいだろうけど、やりがいはあります。わからないところはとにかくチェックを。
  • 数列は公式を覚えるのが面倒ですが、だいたいパターンは決まっているので練習すればできるようになります。問題集もあって大変だけど、ノルマをこなせたら力がつきますよ。

(2009/12/23)


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