火事場のバカ力


 いよいよ入試が迫ってきました。16日と17日にはセンター試験があります(高2も模試……)。
 同じ高校の人がまわりにたくさんいるとは言え、模試とは違う大一番です。緊張するなと言う方が無理でしょう。山本は試験で緊張したことがほとんどありませんが、この試験(当時は共通一次試験)だけはちょっとビクビクしながら受けた記憶があります。私は緊張しないから大丈夫!とか思っている人の方が、いざ緊張するとパニックになる危険があります。見栄を張るよりも「どんなことが起こっても、まあなんとかなるだろう」くらいの方がうまくいきます。
 ところで火事場のバカ力というのは、「非常事態になると、普段からは予想できないような力が出ることがある」という意味の言葉です。普段杖をついて歩いているようなおばあさんが、火事になったときにひとりでタンスをかついで逃げてきたことがある、という有名な話があります。
 人間の体はもともと、生命に危ないことは自然に避けるようにできています。年とったおばあさんが無理に重いものを持つと、筋肉や骨が傷ついてしまうかもしれません。ヘタをすれば肺や心臓に負担がかかって命に関わります。だからおばあさんが重いものを持とうとしても、体が「痛い!」とか「これは持てない!」という信号を出して、無理をさせないようにしているのです。これは若い人でも同じことで、筋肉の限界まで力を出すと体を痛める危険があるので、普段はどんなにがんばっても本当の最大値の70〜80%までしか力を出せず、それ以上やると痛みが出るのが普通です。(因みに体のどこかが痛くなるのは、体が「これはまずいよ〜」という危険信号を出しているので、原因を治さないまま薬で痛みだけをむやみに止めるのは、本当はよくないのです)
 それが火事のような非常事態になると、アドレナリンという体を興奮させるホルモンが体中にたくさん出て、なんとかしなきゃ!という気持ちが体のブレーキを振り切ってしまって、普段なら痛くてできないような、生命の危険があることでもやってしまうことがあるわけです。つまり火事場のバカ力というのは一種の"命がけ"なので、ヘタをすればそれで命に関わる場合もあるし、普通の人が何回もそんなことをすれば確実に体を痛めます。
 では試験で「火事場のバカ力」というのは起こるのでしょうか。普段解けない問題が本番の試験では"ひらめいて"解けた、という話を時々聞きますが、それは本当でしょうか。
 筋肉は非常事態になれば、今まで出せなかった力を出すことができます。それはもともと筋肉に(危険をおかせば)それだけの力があるからです。しかし試験まで覚えていなかったものを思い出すことは、大脳には絶対にできません。知らないものはどんなにがんばっても知らないので、そういう意味では「試験場のバカ力」は期待できません。
 しかし実は脳も筋肉と同じように、普段はフルパワーを出さないようにブレーキをかけられています。大脳は筋肉並みにエネルギーを消費する器官で、ここをフルに使い続けるのは体にとってはしんどいので、長時間勉強すると体がサボろうとして眠くなったり疲れたりというサインを出してくるわけです。みんなにも覚えがあるでしょう。
 でも入試の本番では、試験中に眠くなることはほとんどありません。それは試験中には火事場と同じようにアドレナリンが出て「戦闘態勢」になり、体のブレーキをある程度振り切ってしまうからです。それがヘンな方向に働くと最初に書いたような緊張やパニックに襲われたりしますが、うまくいけば頭の働きがいつも以上になり、計算ミスが減ったり解くスピードが上がったり、1回しか習っていないようなおぼろげな解法を思い出して(これが"ひらめく")、練習以上の力を出せることもあるのです。
 では「うまくいく」ためには、どうすればいいのでしょうか。
 1つは、試験の前に自分を戦闘態勢にしてみることです。いざ本番になってから、いきなり自分をうまくコントロールしようとしても無理です。一流のスポーツマンや格闘家の多くは普段から「体のブレーキをうまくはずす」訓練をしているので、大試合でも緊張しないし、普段できないようなスーパープレーをすることもできるのです。優勝した東福岡高校ラグビー部の諸君も多分そうでしょう。みんなにもそのまねごとはできます。
 残された時間の中で、ここでやらなければ死んでしまうというような「火事場」だと思って勉強してみるのです。大学入試は失敗すれば浪人で1年延長ですから、ある意味本当に火事場のようなものです。筋肉と違って、脳は使いすぎても命にはさわりません。根性論のようですが、たとえば「8割とれなかったら落ちたのと同じ」と本気で思って模試を受けると、そうでない場合と比べて本当に点数が変わるし、内容が頭にも残りやすいのです。短期間なら気持ちの持ちよう次第で、誰でも体のブレーキをはずすことができます。試験前にそれができれば、本番でもいい方向にブレーキを外せる確率が高くなります。
 もう1つは「成功するイメージ」を持つことです。体と脳が戦闘態勢に入っても、脳がどの方向に働けばいいかわからないと、やたらと緊張するだけで終わってしまいます。思いきり優等生になったつもりになって、できる生徒が試験に臨んだらどうなるか、自分がそうなったらどう感じてどう解いていくか、試験がスラスラ解けているあなた自身を想像してみるのです。頭の中をポジティブ(楽観的)にすることによって、ブレーキが外れた脳がいい方向に働けるようになります。「受かったらいいな」ではなくて「自分は絶対受かる!そのためにがんばる!」と思い込むのです。文章で書くと気持ち悪いような話ですが、実際にそういう訓練をしている人は少なくありません。
 これからの人生の中で、「戦闘態勢を自分でコントロールする」経験は間違いなく武器にもなります。山本は勉強ではそういう経験がありませんが、そういう感覚をつかんで合格していった生徒は何人も知っています。本当に受かりたいなら、やってみる価値はありますよ。

 1人1人にメッセージ
  • 最後の最後までしつこく、知識の見直しとまちがい直しを続けてほしいです。これだけやったんだという自信が、土壇場できっとあなたを助けてくれるよ。あきらめない人が勝つのです。
  • もう1回くらい全部の科目のチェック(演習)をしておきたいです。あとは化学Uに少しでも手をつけておけたらと思います。緊張でおなかが痛くなるくらい目一杯やるのだ。勝負だよ!
  • 長いメールをありがとう。免許は無事に取れそうですか。あわただしくなっていくのだろうけど、残された時間であなたなりに"福岡"や"宗像"を感じていてほしいです。春に会おうね。
  • 冬休みは英語がんばったね。どんな科目にも面白さがあるので、英語の面白さを感じられるところまで持っていってほしいです。もちろん数学も、問題集をばりばり解いていってください。
  • あなたの持っている数学のセンスを、この1年で思い切り磨いてほしいです。しんどいときもあるだろうけど、やりがいもあるよ。難問を解けた時の気持ちよさを味わってほしいです。
  • これからは復習が多くなります。忘れていることは説明するので、公式は何回も書いて覚えること、基本問題は確実に解けるように解き直しをすることです。がんばるのだ。

(2010/1/8)


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