現実の中でもがく


 テレビを見ていたら、就職できない大学生の話を取り上げていました。大学生は3回生の後半から就職活動をするのが普通なのですが、1年半かかって50近く会社を回っても内定がもらえず、もう卒業が近いのに就職が決まらない、という学生さんがたくさん映っていました。大学生の4人に1人は就職できないというデータも出ています。「なんでこんな時代に生まれたんだろう」という一言は、聞いていて辛かったです。
 山本も春からまた塾で働きたいのですが、愛伸があった頃よりもさらに就職は厳しいようで、ネットや雑誌やハローワークで調べても求人がはっきり減っています。年も年なので、面接してもらっても落とされるかもしれません。楽観的に考えるようにしているのですが、いつかはどこも雇ってくれなくなるだろうと思うと、怖い気持ちはあります。
 みんなの前には、大学入試があります。「何とかなるさ」と思っている人にも、「どうしよう、だめなのかなあ」と思ってしまう人にも、試験とその結果はやってきます。学校のテストや模試でも点数や順位は出ますが、入試はその結果が人生を左右するという点では、普段の学校生活ではほとんど経験できない「現実」です。
 山本は、高校入試や大学入試なんて、本当はない方がいいと思っています。勉強は人間としての力をつけるためのもので、人をより分ける道具ではないからです。でも現実に入試があって、そこで人生の曲がり角を迎えるのなら、その現実の中でもがくことから逃げないでほしいです。
 それは「自分自身を冷静に見て、現実と向きあう意志を持ち行動する」ということです。試験の結果がよくても悪くても、それが自分の持っている力です。試験には運もありますが、運が悪かったからといって神様を恨んでも仕方ありません。運も含めて実力なのです。誰かと比べていいとか悪いとか考えても意味はありません。自分がどれだけ勉強したか、勉強の仕方はどうだったのか、試験の中で力が出せたのか、出せなかったとしたらその原因は何なのか、次の目標に向けて何をどうやっていくべきか、具体的に1日の中で何をどれだけ勉強するか…… ということを考えて実行することが一番大事なのです。言い訳を考えるのもあきらめて笑うのも簡単ですが、ここで逃げずに現実に立ち向かうことが、絶対にみんなを強くしてくれるはずです。
 入試があるのも就職が厳しいのも、みんなのせいではありません。それは山本たちおとなが、みんなのためにこの国をいい形にしてこられなかった結果です。申し訳ないとも思いますが、だからといってみんながおとなを責めても何も始まりません。おとなになるための「パワー」を手に入れてほしいのです。
 本当の(本物の?)おとなとは、自分自身に責任を持てる人のことです。それは現実(仕事だけでなく、家事や子育ても含めて)に対して智恵や工夫をこらしながら粘り強く立ち向かって、自分のしたことの結果がどんなものでもそれを受け入れる、ということです。しんどいなあと思うかもしれませんが、現実に立ち向かって現実を変えていくということには、子どもには味わえないやりがいや面白さがあるのです。そういうことがちゃんとできるおとなは、例外なく自分の人生を楽しんでいけるのです。最初に書いた大学生の多くが「働きがいのある仕事に就きたい!」と言っていたのは、そのことを知っている証拠です。
 現実の中であがく強さ、おとなになるためのパワーを手に入れる機会として、大学入試を利用してほしいです。特にセンターの終わった3年生には、最後の最後まであきらめず「あがく」覚悟を持ってもらえたら、と思います。合格よりもっと大切な、おとなになるためのパワーを手に入れるチャンスなのです。あと1ヶ月半、山本も最後まで一緒にあがきたいと思っています。(2010/1/15)


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