別れ、そして再会


 塾は学校と違って、途中で入ってきたりやめていく人がいます。
 成績が上がらなければ塾をやめるのも仕方ないし、やめることがその人にとっていい選択なら前向きにとらえたいのですが、やはり塾講師にとって生徒がいなくなるのは辛いことです。自分の力不足を思い知らされたような気持ちになります。
 ……などと書いているくせに、山本は今まで何回か「塾なんてやめれば?」と生徒に言ってきました。それで実際にやめた人もいます。
 塾に通って勉強するのは、お金も時間もかかります。みんなには実感がないでしょうが、何年も塾にお金を出すというのは、家によっては随分きついことです。それでもみんなのためになるのならと思って保護者の人は月謝を払っているので、それだけの成果を出せない・出す気がない人が塾に通い続けるのは、お金を出している人への「裏切り」です。お金をもらって教えている立場としては、保護者への裏切りを放っておくわけにはいきません。せっかく塾に来ても授業で寝てしまうくらいなら、家で本の一冊も読んだ方がいいのではないかと思うこともあります。
 もちろん塾に通ったからといって、第一志望に合格する「成果」をすべての人が出せるとは限りません。一生懸命努力しても、合格できない人もいます。山本は毎年合格発表の後で、落ちてしまった人の家に電話して「力になれなくて申しわけありませんでした」とあやまることにしていますが、あやまったからといってお金も時間も返ってきません(合格できなかったら授業料を返す塾もありますが……)。
 言い訳かもしれませんが、みんなが塾に通う「成果」は、合格することだけではないと山本は思っています。
 みんなが勉強するのは、大学に合格するためでもありますが、これから生きていくための力をつけるためです。数学の問題が解けるとうまく生きていけるのかと聞かれそうですが、本当に自分で自分の生き方を決めて思うように道を切り開いていくためには、理屈を深く考える力、また状況を判断して正しい答を素早く導き出す力が必要です。世の中のオトナをよく見れば、そういう「賢さ」を持っている人とそうでない人は生き方が違うことがわかるはずです。数学でなくてもそういう力を培うことはできますが、どうせ数学を勉強するのならそういうところをめざしてほしいです。だから単に公式を覚えて計算だけするのではなく、なぜそうなるのか、そこから何がわかるのかをいつでも考えていてほしいです。他の科目にも全部「生きていくために役に立つ何か」があるので、学校とはちょっと違う塾の先生たちを"利用"してそういうことを少しでもたくさん味わってくれたら、お金を払っている価値がきっとあると思います(この塾の文系の先生は特に優秀ですよ)。
 受験勉強はラクではありませんが、成長するきっかけにもなります。自分の未来を真剣に考え、志望校など目標を決め、目標を達成するための計画を立て、自分をコントロールしながら努力し、成功も失敗も含めて自分で結果を背負うという経験は、人生を通じてなかなかできるものではありません。もちろん合格してほしいですが、真剣に取り組んで自分が成長したという実感を持てるのなら、入試の結果に関係なくその経験を自分の財産にすればいいし、自分の意志で取り組んだ勉強は決してムダにはなりません。どうせ入試を受けるのならそこまで考えてほしいし、そのために塾をとことん使い込めるなら、お金では買えない貴重な経験ができると思います。
 塾を離れる人にも、同じことを思います。みんなはここで出会った、かけがえのない山本の教え子さんです。塾をやめてもそれは変わりません。勉強の相談にはいつでものるし、励ましてあげたいです。でもそれ以上に、これからの高校生活を充実したものにしてほしい。上に書いたようなことは、塾に行かなくてもできます。塾のことなんて忘れてもいいから、とにかく今と未来の自分のために全力投球してほしいです。そう思っています。
 N君、今までありがとう。春になったらみんなでお祝いしようね。吉報を待っています。(2010/9/29)


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