ノーベル賞の解説


 毎年この時期にノーベル賞の発表が行われます。今年のノーベル賞がどんな人のどんな業績に対して贈られたか、大ざっぱに見ながら解説してみましょう。(米=アメリカ、英=イギリス)

 ☆化学賞;鈴木章(北海道大名誉教授、80才)根岸英一(米パデュー大特別教授、75才)リチャード=ヘック(米デラウェア大名誉教授、79才)
 「クロスカップリング反応の開発」有機化学は「炭素を骨組みとした物質をつくるパズル」とも言えます。新しい物質(分子)をつくるには、2つの分子をくっつけられるかどうかが重要です。この3人はそれぞれに触媒(反応を助ける物質)を工夫して、今までになかった「2つの分子をくっつける(カップリング)方法」を開発しました。この反応によって多くの新しい医薬品や、携帯やテレビなどに使われる液晶の材料などが開発され、私たちの生活に役立っています。この分野ではすぐれた日本人研究者が多く、今回のノーベル賞発表後に、さらに進んだカップリング反応が立命館大学で開発されました。

 ☆物理学賞;アンドレ=ガイム(英マンチェスター大、オランダ出身、51才)コンスタンチン=ノボセロフ(英、ロシア出身、36才)
 「グラフェンの開発」シャーペンや鉛筆の芯などに使われているグラファイト(黒鉛)は、炭素原子が蜂の巣のように正六角形の形に結合した平面が層状に重ねられたものです。このグラファイトから「1層だけ」をはがし出すことは不可能と言われていましたが、ガイム氏らはグラファイトにセロテープを貼ってははがす(!)という単純な方法で、1層だけのグラファイトである「グラフェン」をつくり出すことに成功しました。この物質は今までのどの物質より薄くて強く、また電気をものすごく速く通すので、これからの電子回路や液晶、太陽電池などの開発に大きく役立つと言われています。  ガイム氏は10年前に、磁力でカエルを浮かせるという実験で、ユニークな実験に贈られる「イグ=ノーベル賞」を受賞しています。本物のノーベル賞とのダブル受賞は初めて。

 ☆文学賞;マリオ=バルガス=リョサ(ペルー、74才)
 リョサ氏は大学在学中から小説を書き始め、、1960〜70年代のラテンアメリカ文学ブームの先導役となりました。代表作は「都会と犬ども」「緑の家」「世界終末戦争」など。コメディからミステリーまで作風は幅広く、その作品は多く映画化もされています。評論家・ジャーナリストとしても活動、2003年にはルポ「イラク日記」を発表。政治にも関心を持ち、1990年には親米路線を訴えペルーの大統領選挙に出馬しましたが、日系人のアルベルト=フジモリ氏に敗れています。ノーベル賞委員会は受賞理由を「権力の見取り図を示し、個々の人々の抵抗や反乱、敗北などのイメージを鮮やかに表現した」と説明しています。こういう小説も一度読んでみたら?

 ☆生理学・医学賞;ロバート=エドワーズ(英ケンブリッジ大名誉教授、85才)
 「体外授精技術の開発」子どもができにくい人(不妊症)の治療法として、お母さんの卵巣から卵子を取り出し、体の外で精子と受精させてからお母さんの子宮に戻すという方法を開発した人です。世界で初めて体外受精児が誕生したのは1978年のことで、それ以来世界中で約400万人、日本でも12万人(65人にひとり)が体外受精で生まれています。不妊に多くの悩む人たちに希望を与えた一方で、体外受精によって可能になった着床前診断、代理出産、クローン人間の誕生など多くの問題も出てきています。またローマのカトリック教会はキリスト教の立場から体外受精に反対していて、今回の受賞に対して「全く理にかなわない判断だ」という声明を出しています。

 ☆経済学賞;ピーター=ダイヤモンド(米マサチューセッツ工科大教授、70才)デール=モルテンセン(米ノースウエスタン大教授、71才)クリストファー=ピサリデス(英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授、62才)
 「共有財産や民間企業の経済上の統治に関する分析」3人は共同で失業率の変動を説明するモデルを構築し、失業や求人・賃金が規制や経済政策からどんな影響を受けるかを分析しました。ピサリデス氏は「失業者を長く失業状態に置かないことが一番大事だ。何らかの労働経験を持たせることが必要だ」と語っています。
 日本でも、大学卒業者の4人に1人は就職が決まらないという状況です。山本は失業したとき「仕事をしていない、世の中に参加できない申し訳なさ・情けなさ」があって、精神的に萎縮してしまった記憶があります。働くことは生活のためでもありますが、一人前の人間として生きているんだというプライドを保つためでもあるでしょう。みんなにいい仕事が見つかりますように……

 ☆平和賞;劉暁波《リウ=シァオ=ポー》(中国、54才)
 「中国での基本的人権を求める非暴力の闘い」中国では1989年に天安門事件がありました。言論の自由など民主化を求めてデモをする人たちに中国軍が発砲し、多数の死者を出した事件です。アメリカにいた劉氏はすぐに帰国し、学生たちの断食抗議に参加し、軍が突入する前に学生が逃げられるように知識人4人で交渉し「四君子」と呼ばれました。事件後逮捕され2年間投獄されましたが、釈放後も中国の民主化を訴え続け、さらに2回も投獄や強制労働を受けました。2008年には民主化の推進などを求めた「零八憲章」を発表してまた逮捕され、現在も投獄中です。
 中国在住の中国人が受ける初めてのノーベル賞なのに、中国政府は「(授与は)平和賞を汚すものだ」という談話を出し、本人は授賞式に出られず、代わりに出席しようとした妻も軟禁状態になっているようです。劉氏は「ノーベル賞は天安門事件の犠牲者に捧げる」と語っています。
 こういう人の話を読んでいると、平和とは"勇気"なのだとつくづく思います。自分だけの安全や豊かさに満足せず、世の中の苦しんでいる人のために自分の自由や生活を投げ出す勇気のある人たちが、世の中の平和を本当の意味で支えようとしているのではないかと感じます。みんなも、山本のようなオトナも、世の中とどんなふうに関わっていくのか考えていかないといけないですね。(2010/10/13)


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