みんな違うから、みんないい


 名古屋で今月、第10回・生物多様性条約締約国会議(COP10)が開かれています。
 生物多様性条約とは1992年にブラジルでのサミットで採択されたもので、日本も批准しています。その内容は
 @地球上の多様な生物を、その生息環境とともに保全すること
 A生物資源を持続可能であるように利用すること
 B遺伝資源の利用から生ずる利益を、公正かつ衡平に配分すること
 というものです。COPとはConference of the Partiesの略で、条約に参加している国(Parties)が実際にどのように生物の多様性を守るかを相談する会議(Conference)で、日本で開かれるのは初めてです。
 地球上にはたくさんの生きものがいます。種の名前がつけられているものが動物・植物・菌類など全部で約175万種(昆虫だけで80万種)、まだ人間が名前をつけていない未分類のものを含めると1000万種以上と言われています。日本にも固有種(日本にしかいない種)がいますが、ニホンオオカミやニホンカワウソなど絶滅したものもあります。人間の活動によって生きものが殺されたり住むところがこわされたりして、今は毎日100種の割合で生きものが絶滅していると言われています。
 見たことも聞いたこともない草だの虫だの鳥だのがいなくなったからといって、関係ないと思うかもしれません。でも例えば新型インフルエンザの特効薬であるタミフルは、おそらくみんなが見たことのないダイウイキョウという植物からつくられます。他にも、新しい食糧とか建築材の原料になる微生物、また環境浄化に役立つ植物など、名前は知られていなくても生活に役立っている生きもの(生物資源・遺伝資源とも呼ばれる)はたくさんあるのです。
 そういう人間の役に立つ生きものの多くは、まだ開発の進んでいない発展途上国にいます。例えばブラジルなど赤道付近の熱帯雨林には、陸上の生物の約8割の種類が住んでいて、ホットスポットと呼ばれています。先進国がそういう国で役に立つ生きものを採集して、その生きものから薬や食糧などをつくったとき、生きものをとるだけとって儲けっぱなしはないだろう、途上国にもその利益を回してほしいということで、上のBの文章が出てきたのです。今回の会議はそのような「生物資源からのもうけをみんなで公平に分ける相談」の意味合いが強い会議と言われています。
 みんなは中学校の理科で、食物連鎖という言葉を習っています。生きものはすべて食べる−食べられるという関係でつながっている、という意味ですが、生きものどうしの関係は食物連鎖だけではありません。たとえば森の中の大木は、葉や実などが食われるだけではなく、木の穴の中で鳥が巣を作ったり、強い日差しを遮って下の土が乾燥するのを防いだりしています。ミミズは土の中を動き回ることで、土の中にすきまをつくり空気を入りやすくして、他の土中の生きものが住みやすいようにしています。
 このような生きものどうしの関係は長い時間をかけてつくられてきたもので、そこにいる生きものがお互いにバランスをとって生きていくために必要なものです。だから人間が「この虫だけなら全部とってもいいだろう」と思ってある昆虫を捕りまくれば、そこにいる他の生きものにも影響が及びます。ある生きものを守ろうとするのなら、その種だけでなく、そこにいる生きものと場所全体(生態系と呼ばれます)を保護しなければならないのです。これが先の@「地球上の多様な生物を、その生息環境とともに保全する」の意味です。またブラックバスなど外来種(もともとはそこにいなかった生きもの)が入ってくるとこのバランスが壊れてしまうことがあるので、今回の会議では外来種が入ってくるのをどうやって防ぐかということも話し合われています。
 地球上に生きものが誕生してから約38億年、多細胞生物が現れてから6億年と言われています。長い長い地球の歴史の間には、大規模な火山噴火や宇宙からの隕石の衝突、また寒冷化など、生きものにとって厳しい時代が何度もありました。全体の種の95%がいなくなるという大絶滅もありました。それでも生物が生き残ってこられたのは、簡単に言えば「色々な生きものがいた」からです。
 環境が大きく変わった時、それまで繁栄していた生きものが死に絶えてしまうことは珍しくありません。恐竜はかつては地球上の王者でしたが、気温などの変化によって6500万年前に絶滅してしまいました。この時代を生き延びてその後繁栄したのが、それまで恐竜の陰に隠れてひっそりと生きていた哺乳類(私たちの先祖)です。色々な生きものが共存していれば、環境が大きく変わっても、どれか別の種が生き延びてまた栄えることができます。
 もし1億年前に宇宙人が地球に来て「ちっぽけでコソコソしている哺乳類くらいとってもいいだろう」と思ってネズミのような哺乳類をとりまくったら、私たちはいなかったし、今の地球は全く違った姿になっていたでしょう。今の人間はこの宇宙人と同じことを、より大規模に徹底的にやっているのです。生物の多様性を守るというのは、人間に役に立つ生きものを守ろうというだけではなく、地球の生きものの未来を守るという意味もあるのです。覚えておくといいですよ。(2010/10/20)


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