原子力について


 大変な地震が起きてしまいました。わかっているだけでも死者3000人、行方不明の人を含めると1万人以上が犠牲になると言われています。避難所で生活している人は45万人、食料や水もなく被災地に取り残されたり、燃料や毛布がなく寒さに苦しんでいる人も多くいます。警察や消防や自衛隊、医師団などが救援に取り組んでいますが、規模が大きすぎて手が回りきらない場所がたくさんあります。また地震と津波で発電所が動かなくなったために電気が足りなくなり、東京など地震の被害をあまり受けていない地域でも停電になっています(エヴァンゲリオンに因んで『ヤシマ作戦』という人もいる)。マグニチュードは9.0で日本では観測史上最大、福岡西方沖地震の約1000倍のエネルギーで、世界でも観測史上4番目。地震によって日本列島が2.4m移動し、衝撃で地球の自転が少し早くなったというデータも出ています。
 地震そのものの被害も小さくないのですが、その後の津波によって壊滅的な被害を受けた場所がたくさんあります。さらに福島原子力発電所の事故が追い打ちをかけています。みんなは原子力の理屈について学校でほとんど学ばないので、ここでは原子力発電について説明してみましょう。
 原子はまん中にある原子核と、そのまわりにあって−の電気を持つ電子からできています。さらに原子核は+の電気を持つ陽子と、電気を持たない中性子からできています。陽子の数は酸素原子なら8個、鉄原子なら26個というように、原子の種類によって決まっていて、これを原子番号と呼びます。
 原子核をつくる陽子と中性子は強い力で引き合ってくっついているのですが、個数が多くなりすぎると不安定になり、原子核がこわれやすくなります。原子力発電の燃料に使うのは主にウラン235という原子で、原子核は92個の陽子と143個の中性子からできています(ウラン235というのは、陽子と中性子の合計が235個のウランという意味)。この原子に中性子をあてると原子核がこわれて、また中性子を出しながら別の原子になります(核分裂反応)。化学反応の前後では全体の重さは変わりませんが(質量保存の法則)、核分裂反応では反応後の全体はわずかに軽くなります(質量欠損)。この軽くなった分がエネルギーに変わり、大きな熱が出ます。このことを理論的に証明したのが、前回の通信で紹介したアインシュタインです。
 原子力発電所の燃料棒にはウラン235が含まれていて、このウランの原子核が自然にこわれて中性子を出します。中性子は他の原子核にあたってこわし、そこからまた中性子が出ます。その繰り返しでどんどんウランの原子核がこわれて別の原子になっていき(核分裂連鎖反応)、その時に大量の熱と放射線が出ます。原子力発電はこの熱で水を沸騰させ、水蒸気が出るときのエネルギーでタービン(発電機)を回して電気をつくっています。
 放射線には原子核のこわれた破片であるα線、高速の電子であるβ線、また光(電磁波)の仲間であるγ線があります。このような放射線を出す物質、あるいは出てくる放射線の強さを「放射能」と呼んでいます。放射線や中性子は生きものの体をつくっている原子をこわすので、有害です。大量に放射線を浴びればすぐ命に関わるし、浴びたのが少量でも細胞の遺伝子を傷つければガンになる危険が増えます(レントゲンやCTスキャンも同じ)。
 原子力発電所で一番こわいのは、この核分裂反応が制御できなくなって暴走し、原子炉が爆発することです。今から25年前にロシア(当時はソ連)のチェルノブイリ原子力発電所が事故を起こし、広島型原爆500個分の放射能が放出され、数万人が死亡、今でも放射能の影響で多くの人が病気で苦しんでいます。
 チェルノブイリでは原子炉全体が爆発して、放射能を出す核物質が大量に放出されましたが、今回の福島の事故では圧力容器や格納容器がまだ無事で、核燃料自体は外に出ていないようです。でも燃料を冷やすための水がうまく入らず、燃料がむき出しになっているため、少しずつ核分裂が起こって温度が上がり、高温の金属が水と反応してできた水素が空気中の酸素と触れて爆発し、1号機と3号機では建屋の上半分が吹き飛び、2号機でも格納容器が破損しました。おそらくそのときに放射能が漏れ出し、発電所内ではかなり高い放射線が検出され、また危険なレベルではないものの、遠く離れた東京にまで放射能が観測されています。このまま燃料が十分冷やされないままだと、燃料棒が融けて容器をこわしてさらにひどい事態になる可能性もあります。詳しい情報が発表されないのがとても不安です。
 もうひとつ原子力が問題なのは、放射能が非常に長い間残り、消せないことです。ウラン235は多くがプルトニウムという放射線を出す原子に変化しますが、プルトニウムが出す放射線の強さが半分になるまでの時間(半減期)は2万4000年で、その間そこから出る放射線を止めることはできません。原子力発電所で事故が起こらなかったとしても、反応が終わった後に出るプルトニウムを長い間安全に保管しなければなりません。地下深く埋めることにはなっていますが、実際にはどこに埋めるかも、数万年間誰がどうやって管理するのかも決まっていません(そんなこと本当に決められるのでしょうか?)。原子力発電所が『トイレのないマンション』と呼ばれるのは、こういう理由からです。
 原子力発電所では事故が起きないように何重もの安全策をとっています。今回も原子炉本体は地震や津波にもこわれませんでした。しかし原子炉の外にある非常電源装置が津波でやられてしまったために、原子炉の中に十分水を入れることができず、今回のような事故になってしまいました。人間のすることに絶対はありません。想定外の事態を避けられないとしたら、事故が起こっても致命的な被害が起こらないようにするしかありません。しかしここまで書いたように、原子力は人間が完全にコントロールできないので、多くの人に致命的なダメージを与える可能性を消すことができないのです。それが他の発電との大きな違いです。
 発電所の現場で働く下請けの人が放射線を浴び、病気で苦しんでいるという話もあります。原子力発電はCO(二酸化炭素)を出さず温暖化を防ぐというコマーシャルもありますが、実は運転時に出さないと言っているので、発電所の建設や廃棄物の処理で使うエネルギー(ここでかなりCOが出る)まで考えると、本当に温暖化を防げるのかどうか何とも言えないのです。
 そのような理由で、原子力発電に反対する人はたくさんいます。佐賀の玄海原子力発電所では、核分裂でできたプルトニウムをウランと混ぜてまた燃料として使うという『プルサーマル』が一昨年から行われていますが、危険の大きいプルサーマル発電に対して、多くの人が反対運動を起こしました。もし玄海原発で今回のような事故が起こったら、佐賀から西風に乗って福岡に放射能が飛んできます。他人事ではないのに、福岡ではあまり関心を持つ人がいないように見えます。佐賀から送られている電気をたらふく使っておいて、自分が事故にあう危険があることも、また発電所の地元で事故の危険におびえている人の気持ちもわからないのでは、愚かだと言われても仕方がないでしょう。みんなはどう思いますか。
 原子力発電所の問題は、「安全性(危険性)をどう考えるか」と「これからのエネルギーをどうするか」という2つの面から考える必要があります。いくら危険だからといっても、日本の電気の4分の1を担っている原子力発電をすぐになくすことはできません。太陽光発電や風力発電の開発が進んでいるといっても、まだまだ足りないし供給が不安定です。そもそも原子力発電の量が増えてきたのは、日本人が昔よりたくさん電気を使うようになってきた30年ほど前からです。コンビニも携帯もパソコンも液晶テレビもIHヒーターもなかった時代の生活に戻れば、それだけでおそらく原子力に頼る必要はなくなります。それだけの不便を我慢する勇気がみんなにあるかどうかも問題ですが、電気を使わないとそれだけ電気も電気製品も売れなくなり、景気が悪くなる(経済成長できなくなる)ことも問題です。世の中の根本的なしくみとも関わっているということです。
 難しい話ですが、これからも電気を使って生活していくみんなは、原子力発電の問題と無関係ではいられません。ぜひいつかもう一度、このことについて勉強してみてほしいと思います。(2011/3/16)



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