自分のことは自分で決める


 大阪から福岡に来て一番驚いたのは、公立高校に推薦入試があることと、ほとんどの高校で朝課外があることでした。
 関西でも朝や土曜日や夏休みに授業をする高校はありますが、そういう学校は「なんとしてもいい大学をめざします!」と宣伝している特別なところで、そこを受けたいと言う中3には「わかってる? 覚悟して行った方がいいよ」などと言っていました。多くの学校にはそういう補習がないので、どちらを選ぶか塾の面談で生徒や保護者と悩んだりしていました。福岡だと選択の余地はないわけです。高校が塾の代わりをしてくれるので安くつくという考え方もできるでしょう。先生は大変だろうけど……
 高校に行くと校庭に大学進学実績が貼りだしてあったり、ホームページに「躍進!○○大学に××人合格!」などと書いてあったりします(昔はこういう宣伝はほとんどなかった)。君は成績がいいからぜひK大に行ってほしい、などと高校の先生が言う話もよく聞きます。授業内容も大学入試をめざしたものが多く、大学に行かない人にはつまらないのではないか、と思ったりします。
 高校が入試対策に熱心なのはいいのですが、学校の敷いてくれるレールに乗ればそれでいいというわけではありません。みんなにとって高校の勉強は大切なものですが、自分の将来を考え進路を決めることも同じくらい大切です。自分はどんな人間なのか、どんな長所と欠点があるのか、夢中になれる好きなことは何か、自分の才能を活かせる仕事は何か、世の中でどんなふうに生きていきたいのか……
 大学や学部を決めるにはそういうことも考える必要があるのに、「自分を知る」ための勉強を高校で十分しているようには見えません。将来のことは大学に入ってからゆっくり考えるという作戦もありますが、そういう気持ちで入試勉強をがんばりきるのは大変だし、入った大学や学部が自分に合わないとムダにお金と時間を使うことになります。山本の教え子で九大に入ってから「こんな大学入らなければよかった」と言っている人がいますが、時間は戻らないしどうしようもありません。高校時代の友人で、一浪して東大の文Uに入ったのに中退してまた浪人し、京大の医学部に入り直して今は外科医をしている人がいますが、そこまでやり直す気力とお金がある人は少ないでしょう。遠回りが必ずしも悪いわけではありませんが、少なくとも成績だけを基準にして大学や学部を選ぶのがみんなにとっていいとは言えません。大学は人生の目標ではなく、その先の長い人生の土台を作るための場所にすぎないからです。そして学校の先生も塾の講師もおそらく他のオトナも、問題の解き方を教えることはできても、みんなの生き方の「正解」を教えることはできません。
 みんなの進む道を決めるのはみんな自身です。数学が得意だからといって理系にいくのがいいとは限らないし、学年順位がいいから大学に行かなければならないわけでもありません。有名な大学の方が就職しやすいというのは事実としてまちがいではありませんが、それが大学を選ぶ最も重要な基準であるとも限りません。世の中が大きく変わり始めているこの時代に、「普通」の考え方通りに歩いていって幸せになれる保証などありません。まわりの人のアドバイスを聞くのは大事だけれど、最後は自分でこうする!としっかり決めてほしいです。どんな進路でも自分で真剣に考えて決めたものなら、受験勉強もがんばれるだろうし、後で失敗だったと思ってもそんなに後悔せずにすみます。自分のことは自分で決めるという覚悟があれば、将来なりたい仕事が途中で変わってもやり直せるものだし、そういう人はさっきの外科医以外にも意外とたくさんいるのです(山本もそうです)。
 勉強を「やらされるもの」と思わないで、自分の将来を作る土台だと思って取り組んでほしいです。入試と関係ない科目はありますが、人間の生き方と関係のない科目はありません。点数とか入試とかに縛られずにながめてみれば、本当はどの科目の勉強だって面白いのです。自分の生き方を自分で決めていくためには、ムダな勉強などありません。いつかそんなこともわかってくれたら、とてもうれしいです。(2010/7/21)


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