人との関わり


 夏休みももうすぐ終わりですね。今年の夏は本当に暑かった(今もまだ暑い!)ですが、体をこわしたりしませんでしたか。
 猛暑と並んでよくニュースになったのは、小さい子どもへの虐待と、お年寄りの行方不明の話でした。
 マンションに2ヶ月置きざりにされて衰弱死した3才と1才の子のニュースを覚えている人もいるでしょう。お母さんは1年前に離婚して水商売をしながら2人の子どもを育てていましたが、子育てについて悩みを相談する相手がいなかったようです。お母さんのお父さんは高校ラグビーの有名な指導者だったそうですが、娘(お母さん)とは1年以上会っておらず、住所も知らなかったと言います。
 また東京で、111才になっていたはずのお年寄りが、30年以上前に死んでミイラになっていたというニュースもありました。全国で100才以上の人が無事でいるかどうか調査が行われ、幸い福岡では「行方不明者」はいなかったそうです。100才で区切るのもあんまり意味がないように思いますが(90才なら死んでいてもいいのか?)、それ以上は調べようがないし、わかっても人数が多すぎて手の打ちようがないということでしょう。
 高齢化や少子化が進むのはずいぶん前からわかっていましたが、実の親子の間で「親がどこでどうしているかわからない」「子どもを育てることができない」ということが起こるとは予想されていなかったでしょう。水商売をしながら子ども2人を育てるのは大変なことです。お母さんが子育てに困っているのなら、お母さんの親や離婚した元夫(子どものお父さん)が助けるべきと山本は思うし、100才を越えた人が一人暮らしをしているのなら、家族や介護の人が連絡をとるのも普通だと思うのですが、それが当たり前でも普通でもなくなっているとしたら、子どもやお年寄りにとっては生きにくい世の中なのかもしれません。高齢化も少子化も止まる気配がないので、みんながオトナになる頃にはもっと大変なことが起こっている可能性があります。
 虐待の発見や対処を急ぐ、またお年寄りの無事を確認する方法を考えるなど、さしあたりやるべきこともあるのですが、山本がみんなに考えてほしいのは"人との関わりの意味"です。
 昔の日本には家制度というのがあって、ひとりひとりの自由より「家」を大切にしていました。家のことは主人(たいていお父さん)が決め、結婚相手も将来の仕事も親が決め、子どもには自分の生き方を決める自由はありませんでした。家の安定が第一だったからです。その代わり年をとって体が不自由になっても家族が大切に最後まで世話をしてくれたし、小さい子どもは両親だけでなく兄弟やおばあちゃんなども見ていてくれました。個人の自由を制限する代わりに弱い人を守る、という考え方だったわけです。
 今は家制度は(法律上は)なく、ひとりひとりの生き方はその人自身が自由に考えて決める、という建前になっています。これはこれでいいところがあるのですが(わかるでしょ?)、その代わり子どもやお年寄りなど、弱い人をどうやって守っていくのかを考えなければなりません。児童相談所とか老人ホームなど色々な施設もありますが、まだ家制度の考え方が残っていた時代にできた今の施設や制度だけで、大勢の子どもやお年寄りを何とかできるとは思えません。
 親は子どもを大切にするのが当たり前、お年寄りは家族が面倒を見るのが普通、という家制度のような感覚を持ち続けることは"不自由"なので、どんな対策をとっても自由だけを尊重する限り、今回のような事件がまた起こるでしょう。それを防ぎたいのなら、ひとりひとりの自由を縛ってでも世の中で弱い立場の人を守るのだ、という覚悟を持たなければなりません。スウェーデンのように福祉のために高い税金をとって保育園や老人ホームなどを無料にする(=自分だけお金を儲ける自由をなくす)という手もあるでしょう。昔の日本のように家制度に戻すという手もあるかもしれません。遠くない将来、みんながこの国の方針を決める(選ぶ)時が来るでしょう。
 そのときに考えなければならないのは、家族も含めて「人とどう関わっていくのか」ということです。人間はみんなバラバラで他人のことはどうでもいい(あからさまにそう言わなくても、実際にそうしているオトナはいる)と思うのか、自由を犠牲にしても他人と助け合うことが人間にとって大切なことだと考えるかは、みんなにとって大きな問題です。あなたは勉強で困っている友人のために自分の時間を割いて教える気がありますか。家の手伝いをしていますか。道で何かを探している人がいたら手伝う気がありますか。学校の行事のために受験勉強を犠牲にする気がありますか。自分の親御さんが年老いたら体の世話をする気がありますか。……みんながそれをしなければいけないわけではないけれど、そういう人がいなければみんな自身がいつか「捨てられる」かもしれないのです。オトナになってからいきなり他人のことを考えられるようになるわけがありません。もう時間がないんですよ。(2010/8/25)


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