生きものを感じる


 この学校で働き始めて1ヶ月がたちました。最初はものすごく緊張していましたが、だんだんなじんできて少しホッとしています。
 まだなかなかみんなの名前を覚えられませんが(ゴメン)、たくさんの生徒と色々な話ができるのは楽しいです。みんなが元気に挨拶してくれるのもとてもうれしいです。授業中はまじめに勉強してほしいし、サボってる人に注意もするけど、それ以外の時間はみんなと色々な話をして楽しむのもいいなと思っています。
 授業中にはなかなか雑談をするヒマがないので、こういうお便りの形で色々なことをみんなに伝えていきたいと思います。無理に読む必要はありません。ヒマなときにでも眺めてくれたらうれしいです。

 山本は学校まで西鉄で通っています。都府楼前から学校までの10分ちょっとの道は、最初は随分長く感じましたが、だいぶ慣れました。
 道ばたや家の庭に、色々なお花が咲いています。今は秋の花の盛りの終わり際で、あとしばらくは花を楽しみながら歩けそうです。
 二日市駅から学校に歩く道には小さな側溝があって、そこに小さな魚とかカエルがいます。御笠川にはもっと大きな魚もいるし、魚をねらっているサギなどの渡り鳥をよく見かけます。
 高校の生物の授業では、実際に生きているものを相手にして勉強する機会がほとんどありません。実験にしても、生きもの全体ではなく細胞とか、死んだ生きものを見ることがほとんどです。山本が大学で生物学を勉強していた頃、友人が「俺たちがやっているのは生物学じゃなくて『死物学』だ」とか言っていたのを覚えていますが、大学でもそんな勉強をしている人は多いのです。
 でもみんなにとって生物を勉強する一番の意味は、実際に生きているもの(みんな自身も)が、どんなしくみやはたらきを持っているのかを考えることですから、生きものから離れて生物を勉強してもしかたありません。
 ちょっとした時間でもいいから、みんなのまわりの生きものを見てみてほしいです。道ばたの草でも、お菓子にたかるハエでも、かわいいペットのネコちゃんでも、川を泳いでいる小魚たちでも、学校の入り口に植えられている花壇の花でもかまいません。
 山本は大学院の2年間に、数万匹のミミズやミジンコやユスリカ幼虫などを見ました。本当はホルマリンで殺して観察するのですが、山本はどうしても生きているまま見たかったので、その分徹夜続きになって大変でした。でも顕微鏡の下でうごめいていた生きものたちの姿は、今でも山本の心の中に残っています。生物の本質を知るために、あれ以上の勉強はありませんでした。
 動物でも植物でもみんな、それぞれの命を"しっかり"生きています。よく見るほどそれがよくわかります。みんなが生物を勉強しているのは、生きていることの不思議さ・すばらしさを、理屈や知識を身につけた「目」で感じられる力をつけるためです。ただかわいいとかきれいとかいうのではなくて、生きているしくみやはたらきをちゃんと知った上で「生きものを感じる」ことが、これからみんなが世の中で生きていくときにきっと役に立つと思います。
 たまには身近にいる生きものを「感じる」経験をしてみてほしいです。そして授業の中で不思議に思ったこと、納得できないこと、わからないこと、また新しいことがわかって感動したこと、納得できてうれしかったこと……どんなことでも、勉強の中で感じた色々なことを教えてくれたら、とてもうれしいです。これからの半年間、よろしくお願いします。(2011/10/24)


先週の「いい質問」
 3年生の浸透圧の授業で、「体の中を薄く保つために、海の魚は外に塩分を出してるんだよ」という話をしました。
 授業の後である人が前に来て「クジラが潮を吹くのも、塩分を出してるんですか?」と質問してくれました。
 実際にはクジラの潮吹きは単に呼吸をしているので、塩分を出しているのではありませんが、こういうふうに考えて意見を出してくれるのはすばらしいことです。結果がまちがっていても「これはこういうことかな?」って考えることそのものが、賢くなるためにとても重要なことだからです。
 思いついたこと、不思議に思ったことはどんどん言ってみてください。山本にもわからないことはたくさんありますが、一緒に調べたりして賢くなれたらと思っていますよ。
 質問してくれた人、ありがとう。



通信の一覧に戻る

最初に戻る

inserted by FC2 system inserted by FC2 system