疑うこと


 テレビのコマーシャルで「これを食べるとやせます」「これで英語が覚えられました!」というのがあります。よく見ると小さく「個人の感想です」というテロップが出ています。絶対効果があるとは限りませんよ、という言い訳みたいなものですが、それでもコマーシャルに釣られて買う人はいるでしょう。コマーシャルが悪いわけではありませんが、買ってみてだまされた! とならないためには、コマーシャルの内容が本当なのか、本当に買う価値があるのか、ある程度疑ってかからなければなりません。
 何かを疑うというと悪いイメージがありますが、人の言うことを何も考えずに信じるのではなく、理屈で考えて正しいかどうかを絶えずチェックするということです。
 恥ずかしいですが、山本は時々漢字をまちがえます。今まで何人かに「この漢字は違うんじゃないですか」って言ってもらって、直したことがあります。3年受験クラスだと焦って説明することが多いので、問題の答を書き間違えたり飛ばしてしまい、後でみんなから指摘されて直すこともあります。まあこれだけミスの多い教師はそんなにいないでしょうが、全くまちがえない教師もいないので、「先生の言うことだからこれは絶対正しいんだ!」と思うのは危険です。これは本当だろうか、と思いながら話を聞いていた方が、(前回の「意味を考える」にもつながる)、色々考える分賢くなれます。
 誕生日のコーナーでとりあげた松下幸之助は、貧乏な奉公生活から身を起こして「世界の松下(今のパナソニック)」をつくった人です。彼は働き者でしたがそれだけではなく、それまでの商売の仕方や商品について「これでいいのか、もっといいものはないか」と考え続け、新しい商売の方法や新商品を次々と産み出しました。椎名林檎さんも、それまでの人たちとは全く違う歌詞や歌い方を考え、今までになかった音楽の世界をつくり出しました。こういう人たちが他の人と違うのは、それまでのやり方・考え方が本当にいいのかどうかを疑い、考え直してみたことです。他の人の言っていることをすべて鵜呑みにするのではなく、「もしかしたらこうなんじゃないか?」「ここは正しいけどここは違うのでは?」と疑ってみる、そしてどうしたらいいのかを自分で考えたり試してみる、それが今までにない新しいものをつくり出すことに結びついたのです。
 みんなにも、同じことはできます。オトナの言うことだから無条件に正しいと思うのではなく、本当にそうなのか、理屈で考えたらどうなのか、ということを考え続けてほしいです。先生を信頼することと、先生の言うことを無条件に信じることは別です。山本はみんなのために教えたり指示をしたりしますが、だからといって山本の言うことが全部正しいわけではありません。みんなが賢くなるために努力したいし、信頼関係もつくっていきたいけれど、山本とみんなの考え方が違うことはあって当然です。この通信の文章だって、全部その通りに納得する必要はありません。みんなもうすぐオトナになるのですから、オトナの言うことに頼り続けるのではなく、「こいつは○○とか言ってるけど、実はそうじゃなくて××なんじゃないか」というように、本当に正しいことが何かを考えてほしいです。自分の人生を本当に自分のものにするには、誰かの言うことを鵜呑みにするのでなく、正しいこと・真実を基準に考えていくしかないからです。学校の勉強には、正しいものの考え方を身につけて、何が真実なのか自分で判断する力をつけるという意味もあるのです。
 教科書に書いてあることは全部正しいと思うかもしれませんが、教科書にだってまちがいはあります。もちろんわざとまちがえているわけではなくて、まだわかっていないこと、あるいはまだ教えられないことがあるからです。たとえば500年前の理科の教科書には「太陽が地球のまわりを回っている」と書いてありましたが、現在ではこれはまちがいとされています。今の教科書に書いてある内容でも、新しい発見によってまちがっていることがわかって訂正されるかもしれません。そうやって考えていけば、教科書は「とりあえず今はこのへんが正しいと言われてる」くらいに思っておいた方がいいということになります。
 今の日本は民主主義の世の中です。民主主義には色々な意味がありますが、原則は「自分のことは自分で考えて自分で決める」ということです。みんなはまだ子どもなのですべてそうすることはできませんが、オトナになれば自分の生き方は自分自身で決めることになります。誰かのいいなりになって進路を決めて、年をとってから「私の人生は何だったんだろう」と思っても、手遅れです。後悔せずに生きていくためには、本に書いてあったり人が言っていることが正しいのかどうか、批判的に(クリティカルcritical、疑って)考えることも必要なのです。
 ものごとを批判的に(疑って)見るというのは、疑心暗鬼になることではありません。相手を信頼するからこそ、まちがっていることはまちがっていると言えるし、相手のまちがいを指摘したり議論することがお互いのためになると確信できるのです。素敵なオトナになるってそういうことだって山本は思うし、みんなにそうなってほしいと願っています。(2011/11/21)


先週の「ありがとう」
 3年生は推薦入試などがあり、忙しい時期に入っています。ご苦労さまです。
 授業の準備をしているときに、ある人が職員室に「推薦入試ダメでした……」と言いに来てくれました。残念。悔しいよね。
 でもまだ勝負はこれからだし、失敗を経験した分だけ精神的にも強くなれるよ。辛いことを経験した人の方が、人の気持ちを深くわかるので、やさしくもなれます。
 受験勉強が長引くのはイヤだろうけど、最後の最後までがんばって合格した方が、受かったときの喜びも何倍も大きいです。前を向いて進んでいってほしいです。
 ○○さん、わざわざ知らせに来てくれてありがとう。あなたの勝負もみんなの勝負もこれからだよ。一生懸命やっていれば、絶対春は来るよ。後悔しないように生きていってほしいです。応援しているよ。



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