旅立ちの時


 高3の人は、もうすぐ授業が終わりです。
 短い間でしたが、山本の授業につきあってくれてうれしかったです。みんながどう思っているか……考えると少し怖いけど。前の先生とはずいぶん違う授業で、とまどったり困った人もいたのではないかと思っていますが……まあ許して。
 まだ進路が決まっていない人もいますが、どうなるにしても、みんなはあと少しでこの学校とお別れです。みんなにとって、ここでの時間はどんな意味を持っていたのでしょうか。
 18才というのは、世間から見ればもうほとんどオトナです。この国では20才でオトナ扱いになりますが、世界的に見れば18才で成人として扱う国の方が多いのです。ネパールだと16才、プエルトリコだとなんと14才で成人式があります。
 オトナとは本来、自分の行動に自由と責任を持てる人のことです。タバコを吸うのも自由だし、それで肺ガンになるのも「自由」です。自分が好きなように楽しんでも人に迷惑をかけなければ誰にも何も言われないし、自分のしたことで悪いことが起こっても、それで誰かに文句を言うことはできません。今のみんななら、失敗をしても他の誰かが責任を負ってくれますが、もうすぐそれはなくなります。楽しいことも悲しいことも、自分自身で引き受けるのがオトナです。
 ……実際には20才になったからといって、すべての人が自分の行動に責任を持てるわけではありません。世の中には自分の生き方に責任を持てない困ったオトナもいます。山本も今まで色々なことで行き詰まって、家族や仕事場の仲間に迷惑をかけ、どうしようもなくなって仕事をやめて休んだことがあります。自分の失敗の責任を自分で背負えず、人に迷惑をかけてしまうのはとても辛いことです。みんなにそんなふうになってほしくありません。本当に自分の望む生き方をするために、自分の行動に責任を負う強さを身につけてほしいです。本当は勉強だってそういう「力」を身につけるためのものなのです。テストの点とか入試の結果も大切だけど、今までに習ったことがオトナになったみんなにとってどれだけ役に立つか、どれだけみんなを支えてくれるか、それがこの学校でみんなが勉強してきた本当の意味なのです。そのことをいつか、思い出してほしいです。
 もうひとつのオトナの意味は、社会に出て働くことです。仕事には辛い面もあるけど、どんな仕事も、何かの形で世の中に関わって、世の中の誰かを支えています。
 山本は元々、教師になるつもりはありませんでした。大学院生の時に塾のアルバイトを始めたときも、生活費を稼ぐためだと思って割り切っていました。でも初めて教えた受験生(中3)が高校に受かって、泣いて喜んでいるのを見たとき、自分にはこんなふうに子どもを支える力があるんだって思えました。とても不思議な気持ちでした。その後会社勤めもしましたが、あの時のうれし泣きしていた子の顔が忘れられず、勉強がわからなくて苦しんでいる子どもの力になれたらと思って、結局29才の時に教師になりました。本当に自分がこの仕事に向いているのかどうかはわかりません。でもどんなにささやかでも、この世の中でみんなと山本との関わりは、たったひとつだけのものです。失敗も多いし悩むこともあるけれど、少しでも今と未来のみんなのために貢献できたら、山本は幸せです。どんなにしんどいことがあっても、この世の中で自分の力が何かの意味を持っている、誰かの支えになっているということが、プライドになって自分を支えてくれるのです。
 働くことにどんな意味を持たせるかは、人によって違います。ただどんなふうに考えても、仕事を持って働くことが、世の中で何かの意味を持っていることはまちがいありません。そのことをプラスに考えられたら、そう感じられるような仕事につけたら、幸せになれるだろうし、山本もうれしいです。そんなことも、いつか考えてみてほしいです。
 みんなの人生は、本当にこれからです。生きることの本当の楽しさもうれしさも、これからのみんなを待っています。自分自身と周りの人たちを愛しみながら、思いきり生きることを楽しんでほしいと思っています。(2011/12/14)



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