生きていることを感じる


 新年度が始まりました。みんなそれぞれに新しい気持ちで、新しい学年に臨んでくれていると思います。これからの1年が、みんなにとっていい時間になってほしいです。

 先月末、東京〜岩手と旅行に行ってきました。深夜バスで4泊はかなりきつかったです。岩手の話はまた次にすることにして……
 東京では、上野の国立科学博物館とお台場の日本科学未来館に行きました。春休みの上野公園は人でいっぱいで、科学博物館の特別展も行列ができていたので、常設展だけを見ました。
 それでも見るところがてんこ盛り。日本館と地球館があって、日本や世界の生きものがいっぱい。こっちをにらんでるクマの剥製(ちょっとこわい)、見上げるような恐竜の化石、ブラシみたいな歯を持っているクジラの頭骨、ハチの巣から生えているキノコ…… 2時間半歩いて足が棒になっても、全部見きれませんでした。
 科学博物館では生物以外の展示もありましたが、生きもの関係が一番面白かったです。福岡ではなかなか見られないものがたくさんありました。
 科学未来館は、毛利衛さん(日本で2番目の宇宙飛行士)が館長をされているだけあって、宇宙関係が充実していました。スペースシャトルの模型の中に入って「宇宙船の中ってこんな感じなんや〜〜」って感動したり、本物の宇宙ロケットエンジンの大きさに圧倒されたり、ロボットが踊ってるのを見て意外と?興奮したり。NHK教育テレビで放送している『大科学実験』の実体験コーナーでは、小さな子どもたちが押すな押すなで実験を楽しんでいました。高校生でもけっこう楽しめそう。やっぱり実物はテレビとは迫力が全然違います。
 みんなもこれから東京に行くことがあるでしょうが、ディズニーランドとかスカイツリーとかだけじゃなくて、こういう場所にも意外な「お宝」があります。生物や理科に興味のない人も(むしろそういう人ほど)、今まで知らなかった世界に触れると、ものの見方や考え方が変わるかもしれません。生物に限りませんが、若いうちにぜひ、色々なものを見て自分の世界を広げておいてほしいです。きっとムダにはならないよ。

 今まで地球上で人間が確認した生物は約175万種ですが、実際にはその10倍近くの種類の生きものが地球にいると言われています(その半分近くが昆虫類)。人間が生きていけない酸素のない場所や、温泉の中、他の生きものの体の中にも、たくさんの生きものがいます。みんなの体の中にも!数え切れないくらいの生きものが住んでいるのです。
 これからみんなが勉強する『生物』は、地球上の生きものがどんなふうに生きているのか、ヒトとミミズとサクラのように(生きものとして見るときは、『人』ではなく『ヒト』と書きます)見た目は全く違う生きものが、どんな同じ理屈と違う理屈で生きているのかをわかっていくことです。
 覚えることもたくさんありますが、なぜそうなるのか、どうしてこうなってきたのかを考えて、理屈を納得していくことが一番大事だし楽しいのです。みんなに少しでも、生きもののその不思議さや面白さを味わってほしいです。
 博物館に行って不思議な生きものを見るのも、学校で生きものについて学ぶことも、大切なことです。
 ただ みんなのまわりには、普段からたくさんの生きものがいます。学校の正門を入ると、たくさんの花が咲いています(毎日、係の先生がお水をあげています)。今ならその花に集まってくるチョウを見ることもできます。ここのところ毎朝、3号館のベランダにはセキレイが飛んできて遊んでいます(かわいいよ〜)。学校から二日市に行く道の小さな側溝には、もうすぐオタマジャクシが泳ぎ出すでしょう。都府楼前駅に行く国道沿いの道には、クロガネモチの赤い実が青い空に生えてとてもきれいです。みんなの家やそのまわりにも、よく見れば色々な生きものがいるでしょう。
 そういう身近な生きものたちを、たまにはゆっくり"感じて"みてほしいです。見慣れている生きものでも、じっくり見たり(安全なら)においをかいだり触れてみたりすると、わかることがたくさんあります。植物は動かないけれど、石みたい命のないものとははっきり違います。花だって葉だってそれぞれのルールに従って形をつくって育っていきます。公園で行列をつくっているアリだって、じっと見ていると色々なクセ(特徴)がわかって面白いです。
 何かをしっかり観察することはとてもいい勉強になるし、うまく言葉にできなくても「生きものが生きていること」を感じる経験をしておくのは、これからのみんなが他の生きものとうまく共存しながらやっていくために、とても大切なことだと思います。忙しいでしょうが、できたらそんなことも覚えておいてほしいです。
 みんな自身だって、りっぱな生きものです。息をすること、ものを食べること、もしかしたらいつか子どもをつくること、そしていつか必ず死ぬこと。それもすべて他と同じ生物としての特徴です。植物はものを食べないって思う人もいるでしょうが、見方を変えれば動物も植物も同じことをしていると言えるのです。勉強すればそのことがわかるでしょう。
 みんなは意識しなくても、いつも「生きて」います。思いきり走って息が切れることも、風邪をひいて熱が出ることも、お腹いっぱい食べて眠たくなることも、好きな人ができて胸がドキドキすることも、生きものとしてあたりまえの反応です。生物を学べば、自分が生きていることをもっと深く感じることができます。心臓や自律神経について学べば、ドキドキするのがどういうことか、なぜそうなるのかもわかります。筋肉について学べば、どういうトレーニングが筋肉のためにいいのかもわかります。生物を学ぶのに自分の体以上の教材はないし、逆に勉強することで、自分が生きていることをより深く感じることもできます。そのことも覚えておいてほしいです。
 生物を勉強するのは、自分や身のまわりの人の体のしくみを知って自分や家族の健康を守ること、様々な病気についての知識を持ち偏見をなくすこと、自分の体とどうつきあっていくかを考えること、そして他の生きものと共存してこの地球で生き延びていく方法を考えること(他の生きものなしで人間だけが生きていくことはできません)につながります。それらはきっとみんなにとって、一生の財産になります。
 みんなが賢くなることを心から願っています。どうぞよろしくお願いします。(2012/4/18)



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