右脳、左脳、そして


 連休中に、サッカー部の試合を見に行ってきました。結果は残念でしたが、みんなが一生懸命にボールに向かっているのが印象的でした。
 試合を見ながら、サッカーがうまくなるにはどうしたらいいのかなって考えていました。
 サッカーが上手な人は、速く走れるとかボールを強く正確に蹴るとか相手にあたり負けしないとかスタミナがあるとか、そういう体力や技術を持っているでしょう。でもそれだけだと多分試合で活躍できません。
 ボールを持ったときにどこにパスを出すか、または自分でドリブルするか。ボールを持っていないときにどこにいるのが一番いいのか。どういう動き方をしたら相手がとまどってミスをしやすくなるか。一流の選手はいつもそういうことを考えながらプレーしているはずです。
 サッカーは11人で力と知恵を合わせる競技です。体力や技術で少々劣っていても、頭を使いながらチームプレーをしていけば、いい試合ができるでしょう。
 ところで人間がものを考えるのは、大脳新皮質と呼ばれる部分です。思考や記憶、感覚や随意運動(自分の意志による運動)は、主に脳の一番外側の、厚さわずか4ミリほどの部分のはたらきによるものです。ヒトの脳にはたくさんのしわがありますが、これには大脳新皮質の面積を増やす効果があります。
 大脳新皮質の働きは左右で少し違っています。左側の脳(左脳)はどちらかというと言葉の読み書きや理屈で考える方、右側の脳(右脳)は直感やイメージを感じる方だと言われています。左右で完全に分業をしているわけではないし個人差もありますが、脳が理屈と直感を使い分けていることはまちがいありません。理屈のかたまりのように思える将棋でさえ、一流の棋士になるほど「直感が大事だ」と言います。理屈の裏づけのある直感がなければ勝負には勝てないのです。
 サッカーの一流選手のプレーを見て、「自分たちがこんなプレーができたらいいな」「こんなふうにシュートを決められたらいいな」と思うのは、理屈抜きでイメージを感じ思い描く力(主に右脳のはたらき)によるものです。そういういいイメージをつくったら、どうやったらそういうプレーができるか、どういう練習をしていけばいいかを理屈で考えていく作業(主に左脳のはたらき)も必要でしょう。イメージだけ思い浮かべて何となくプレーしていても、逆に理屈だけ考えていても、素晴らしいプレーはできません。脳の2つの力をフルに引き出してこそいいプレーができるし、頭と体をフルに使うことでよりサッカーを楽しめるでしょう。
 このことはサッカーに限りません。勉強でも、イメージをつくることと理屈で考えることのバランスをとるのが、成績を上げるコツです。
 生物は覚えることの多い科目ですが、ただ覚えようと思って見ているだけでは、なかなか頭に入りません。ここが工夫のしどころです。
 例えば右のミトコンドリアの図を見て、自分なりにどんなイメージが浮かぶか考えてみましょう。迷路? 何かな?
 次に、このミトコンドリアの中で化学反応が起こって、エネルギーが出てきているようすを想像してみましょう。自分なりのイメージをつくってみてください。名前と図とはたらきを別々に覚えるのではなく、こうやってイメージをつくることが、うまく覚える方法です。
 もうひとつの覚え方は、なぜこんな形をしているのかを理屈で考えることです。ミトコンドリアで最もエネルギーを生み出す電子伝達系という反応は、図2の矢印のように内側の膜(内膜)の中と外をはさんで行われています。内膜がミトコンドリアの中に向かってたくさん入り込んでいるのは、この反応が起こりやすくするためです。そのことを知っていれば、図2のように化学反応が起こっているイメージをつくって、形とはたらきを結びつけて覚えることができます。このように理屈とイメージを組み合わせていくことで、より深く形やはたらきを理解し覚えられます。
 他の科目の勉強にも、また勉強以外のことでも、「イメージをつくって覚える」「理屈で納得する」という方法は有効です。おとなになって仕事をするときでも、大脳のはたらきを知ってうまく使いこなすことが、自分の持っている能力を活かすコツです。サッカーをする脳も勉強する脳も同じ脳ですから、サッカーで脳を使うことで勉強もできるようになるし、勉強で脳を鍛えることでサッカーもうまくなるはずです。
 さて、サッカーでも勉強でも何かをするときに最も重要なのは、実はイメージでも理屈でもなく「気持ち」です。ヒトの感情は主に大脳辺縁系という、大脳新皮質よりも内側の部分がコントロールしています(裏の図)。怒りや悲しみや恐怖の気持ち(情動といいます)はイヌやネコも持っていますが、それはヒトと同じように辺縁系があるからです。原始的だけど、生きていくためにどうしても必要な部分なのです。
 やっていて楽しいこと、心からやりたいと思えることは、少しくらい面倒でも苦に感じないし、困難があってもたいてい乗り越えることができます。逆に自分の感情を無視(我慢)してやりたくないことばかりの生活をしていると、段々しんどくなってきます。感情に振り回されるのはよくありませんが、心の深い部分の気持ちに逆らい続けることもよくありません。
 好きなことを見つけるのがいいと思います。本当にやりたいことがあれば、少々イヤなことがあっても我慢できます。夢をかなえるためなら、困難を乗り越えるための努力も楽しめます。これをしたい!という気持ちがあるからこそ、イメージも理屈も十分役に立ちます。素敵な生き方をしているおとなはみんな、自分の気持ちを大切にしながら、結果として世の中の役にも立っているのです。みんなにもそうなってほしいし、そのために勉強もがんばってほしいと思っていますよ。(2012/5/11)



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