ナマモノを見せること


 この学校の授業は45分で、教える方としてはちょっと短い感じです。「もうちょっとこの話をしたいのに〜〜×××!」という気持ちで授業を終わることもあります。
 本当は実験をしたいのですが、とにかく教科書を先に進まないといけないので、なかなか余裕がありません。Yがもっと要領よく授業を進められたらいいんだけどね。なんとか1年生のうちに1回だけでも理科室で実験できたらと思っています。
 実験が面白いのは、みんなにとってはいつもと違う場所で気分を変えられるというのもあるでしょうが、何といっても実物に触れることができるからです。どんなにきれいな写真を見ても、本物の迫力にはぜんぜんかないません。細胞分裂の図を覚えるのもいいけど、タマネギの根を塩酸につけたり押しつぶしたりして(けっこうな人がガラスを割ります)、顕微鏡をのぞいてあっちこっち探して、本当の核分裂中期の細胞を見つけたときの感動は、普通の授業ではとても味わえません。
 理科はもともと自然科学 Natural Science といって、自然から学ぶのが原則です。教科書も図説も色々のっていて詳しいけど、自然そのものではありません。「細胞を浸している組織液〜〜」とか書いてあるけれど、実際に生きものの体を切り開いて組織を見ると、そんなに簡単ではないことがわかります。教科書の説明や図は、わかりやすくするために細かいところを省いていることが多いので、本物とは違っていることもあるのです。でもそれは自然を学ぶ方法としては「逆順」です。
 生物を学ぶのに一番基本になるのは、何といっても生きものを見ることです。動物でも植物でもそれ以外でも、生きものを観察してそこからわかること、不思議に思えることを出発点にしてそこから色々考えるのが、生物を学ぶのに最も大事なことです。
 Yは大学で生物を勉強しましたが、生きているナマの生きものをさわる機会は意外に少なくて、死んだものを解剖したり細胞だけを取り出して見たりという実験がほとんどでした。友だちは「俺たちがやってるのは『死物学』やな」なんて言っていました。たしかに……。だから卒業研究では生きているものを研究したいと思って、川の上を飛んでいるホタルの生態(暮らし方)を調べました。とっても面白かったです。
 7月にアサガオを見せましたが、アサガオ1つにしても、じっと見ていれば不思議なことが見えてきます。なんでつるが巻くのか、何のためにつるが巻くのか、なんで葉に白い部分があるのか、なんで葉の模様が同じのと違うのがあるのか、そもそもなんであんな葉の形なのか。そういう「不思議」をたくさん感じて、そこから何かを考えたり調べたりするのが、本当の勉強だとYは思います。
 そう思ってできるだけ毎週、色々な生きものを見てもらっています。時間がなくてゆっくり見てもらえないこともありますが、あんまり難しく考えずに「生きものが生きている」ようすを見て、何かを感じてもらいたいです。それだって大事な生物の勉強なのです。
 この間授業で見せたヤゴは、学校の中庭の池にいます。小さい網があれば簡単に捕まえられます。ヤゴとりをしてみたい人がいたら、放課後に一緒にやってみませんか。面白いよ。

チェックシートより (2013/9/24)


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