読書のすすめ

 期末試験の最中に不謹慎な・・・とも思えますが、これは夏休みのための話です。
 この学校の中で文句なしに"すばらしい!"と言えるものの一つに図書館があると思います。絵本などの子ども向けの本から、大学の図書館並の専門書まで、しかも全部開架(=いつでも読める)。本だけでなく、司書の人がこれだけ揃っているのも珍しい。・・・もちろん欠点もありますが、みんなの活かし方次第でとても有効に使える場所です。自習用にだけ使うのは余りにもったいない。
 もうひとつは、−−−よく言われることですが−−−あなたたちの年のときに読む本は、一生残るものが多いのです。これはまるっきり理系の頭だった山本でもそう思います。長い本を読むチャンスは学生のうちだけです。山本は高校時代地下鉄通学だったので、電車の中だけで「チボー家の人々」を1年、「戦争と平和」を1年半かかって読みました。1年かかると、読み終わる頃には初めの方の話はすっかり忘れています。それでも何かの拍子に"あのとき読んだこの本のこんな情景"が浮かんできたりするものです。早い話が、本物の恋愛小説を読むと、それだけで恋をしたような気分になれるものです。(ホントデスヨ)

 まあ文学の意味はとにかくとして、ここでは理科の本を紹介します。本物の勉強は、教科書や参考書や問題集からは得られません(あっ、断言してしまった)。理科の本物の勉強は何と言っても実験・観察ですが、その次に面白いのは「本物の科学者の書いた本(文献という)を読むこと」です。教科書は最低限必要なことしか書いてないので、いわば洗いすぎて栄養のなくなったお米のようなものです。色々な人の書いた本を読んでみて下さい。同じ科学の知識でも、全く違う見方ができたり、生活と結びつけて考えることができるようになったり、研究者のナマの生きざまがわかったりします。そういうことは、息の長い勉強をしていくつもりなら、とても大切なことなのですよ。

 図書館で見つけた何冊かを紹介します。
 裳華房「ポピュラー・サイエンス」シリーズ・・・割合新しい、読みやすい話題を中心とした本があります。「家庭で楽しむ理科遊び」宮田光男。家でできそうな理科実験が並んでいます。「エッセンシャルオイルの化学」亀岡弘。薬関係に興味のある人には、よくわからなくても見ているだけで将来の肥やしになりそうです。その他「化学雑話」林良重、などが面白そう。内容としてはある程度化学の知識が必要になるので、それこそこの学校中で、あなたたちのような人でないと読まれない部分も多いのです。理系の特権を活かそう!
 岩波科学の本シリーズ・・・「だれが原子を見たか」江沢洋。ブラウン運動の話から、昔の人がどうやって「原子」という考え方を作っていったかを解き起こす。「ぼくらはガリレオ」板倉聖宣。これは物理ですが、力と運動の関係などが大変わかりやすい。ガリレオは「それでも地球は回る」が有名ですが、その前に大変大きな失敗をしていたのです。そこから立ち直るところのガリレオの前向きさが好き。板倉先生は他にも大変面白い本を書いている人です。「流れる個体」レオロジーという分野ですが、これもコロイドと関係しながら実際の生活に出てくるものと関係づけて話しています。岩波の本は地味なものも多いですが、内容はしっかりしていると言えます(=はずれが少ない)。
 食品添加物関係の本・・・例えば「子どもが食べてる食品添加物」(家庭栄養研究会編、食べ物通信社)。去年生物の時間に「アスパルテーム」の話をしましたが、そんなものはそれこそ氷山の一角で、危険な食品はみんなの周りにごろごろしています。この手の話にはどうしても化学式がつきまとうので、化学の苦手な人には興味があっても学びにくいのです。これも理系の特権。自分の体の将来にも関わることです。
 「東京に原発を!」広瀬隆・・・一時大変話題を呼んだ本です。原子力発電所は普通、人里を離れた海の近くに作られますが、考えてみれば電気を一番よく使う大都市に立てるのが一番効率的です。しかしそういうことは絶対にしない、それはなぜか・・・というところから出発して、原子力発電所とはどういうものなのかをやや扇情的に訴えていきます。でも一度読んでみることを勧めます。「眠れない話」「最後の話」とシリーズになっています。
 「日本人の仕事」鎌田慧・・・これは理科の本ではありませんが、みんなの進路を考える上ではいい本だと思います。日本の、本当に目だたないところで働いている色々な職業の人に取材して作った本です。いいところも悪いところも隠さずに出ているところがいいと思います。
 (最後の2冊はまだ図書館に入っていない。この間入れてもらうようお願いしました)
 読書運動だとか感想文だとかにとらわれず、「自分の役に立つ一冊」を今年のうちに見つけて欲しいと思います。

 夏休みの予定について
 化学の勉強について・・・宿題は出しません。とにかく徹底的に復習をして下さい。問題集で、今まで習った範囲のところが少しでも完全にできるようにして下さい。どうしてもしたければ予習をしてもかまいませんが、そういう場合もあまり焦らないで下さい。
 宿題は出さない と書きましたが、できれば「教科書から少し離れた理科の本を読む」ことと「自分の進路についてもう一度真剣に考えて悩む」ことをして欲しいと思います。高3の選択を選んでしまうと、もう後戻りはきかなくなります。「10年後の理想の自分」を想像できるように、そのためには何が必要なのかをしっかり考えられるような・・・そんな高2でいて欲しいと思います。
 2学期にまた元気な顔を見せて下さい!(1994/7/6)


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