サンショウウオに寄せて

 授業の中でサンショウウオを見せています。直接授業の中身とは関係ないクラスの人にも話をしています。
 "時間のムダ使い"と思う人もいるかもしれないので、なぜみんなに見せているのかについてもう1度説明したいと思います。

 山本は教師になる前、吹田のある会社に勤めていました。入って1週間くらいした頃に、初めての出張に行きました。「環境アセスメント」という仕事です。
 ゴルフ場とかダムとか、大きな建築物を自然の中に作るときには、それがどれだけ自然を壊すか、どれほど生きものに影響を与えるか、ということをあらかじめ調べることがあります。日本の場合、影響があるからと言って作るのをやめることはないのですが、「一応調べましたから(安全ですよ)」というアリバイのようなものです。これを環境影響評価;環境アセスメント(中3・高3は辞書を引いてみましょう)と呼んでいます。

 さて仕事先は滋賀県の土山というところ(鈴鹿サーキットの近く)で、ゴルフ場の建設予定地の生物の調査でした。ひなびた村の国道から横にそれて、お茶畑の向こうの小さな山へ車を入れていきます。雨上がりだったので山道はぬかるみ、水たまりだらけ。山小屋の近くで車を止め、降りてまわりを見回しているとき、先輩が声を上げました。「何だ、これ?」
 通ったばかりの水たまりの中でイモリみたいな生きものが半分つぶれて浮いていました。車でひいてしまったのです。何ちゅうこった、と思いながら水たまりをよく見ると、カエルのような卵のかたまりが浮いていました。これを育ててみたらどんな種類の生きものかわかるだろう、ということで、会社に持って帰ってかえしてみることにしました。
 水槽にいれて1週間ほどした頃、エラが外側に飛び出したオタマジャクシのようなのが、いっせいに出てきて共食いをし始めました。あわてて入れ物に少しずつ分けて飼い始めましたが、暑さでどんどん死んだりして、3ヶ月した頃には10匹ほどになっていました。
 図鑑で調べてみたところ、カスミサンショウウオというあまり珍しくない(でもかなり減っている)種類であることがわかりました。
 調査報告書に、「カスミサンショウウオがいるから、ここにゴルフ場を作るのはよくない」とは、結局書かせてもらえませんでした。この仕事はゴルフ場を作る会社からもらっているので、あまり過激な(?)ことを出すわけにはいかなかったのです。後で夏にゲンジボタルを見つけて、「ホタルの住める場所だけはとっておいて欲しい」とだけは書きました。……でもとにかくゴルフ場はできてしまいます。サンショウウオのふるさとはなくなってしまうのです。

 ゴルフ場は芝生を保持するために大量の農薬をまきますが、それは水の中の生きものに致命的な被害を与えます。もうサンショウウオを土山に返すことはできません。他に住めそうな場所もありますが、1年間人間の手で育てられたサンショウウオに自然の中で生きていく力があるかどうかもわかりません。
 山本が会社をやめる時、残っていたサンショウウオをどうするか相談しました。何匹かは会社の人がずっと育てていくことになり、山本は2匹だけもらっていきました。どうしていくのか深く考えていたわけではありません。山本がゴルフ場を作ることに結果として協力してしまったことを忘れないように、できるならみんなにそのことを教える材料にするために、今でもサンショウウオと「同居」しているつもりです。

 ゴルフ場のことについてはまたいつか書くことがあると思いますが、とにかく「不必要に生きものを殺すこと、すみかを奪ってしまうこと」の意味を考えて欲しい、自分たちの生活がどんなふうに自然・生きものと関わっているのかがわかるようになって欲しい、と思います。(1996/7/8)


 先週の御苦労さん

   「ふしぎ・なぜ 大図鑑」という大きい本があります。
   生きものの絵などがたくさんのっているので、山本も資料としてよく使います。
   小6の授業の時に持っていって見せたら、
   「ぼくも持ってるで。今度持ってくる!」と言って、
   「地球・宇宙編」を2回も塾に持ってきてくれました。
   せっかくだから授業で見せたかったけど、チャンスがなくて申し訳ない。
   山本も"宇宙編"を買いたいと思っています。
   自分の興味の向く本を色々見ているのも勉強になるよね。
   また面白い本があったら紹介して下さい。
   重い本をわざわざごくろうさま。ありがとう。
 


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