やっぱり……て欲しくない その1

 山本は体質でほとんどお酒が飲めません。コップ半分のビールで寝てしまいます。大学生の時サークルの仲間から「酒の味がわからんなんて、人生の不幸だなア」と言われたことがありますが、どう言われても飲めないものは飲めないのです。
 一度だけタバコを吸ったことがあります。21の時友だちに勧められてくわえてみましたが、何にも味がしません。
 「何にも味がしないよ」
 「そりゃおまえ、くわえてるだけで全然吸ってないやん」
 で、吸い込んでみた途端に!せきこんでしまいました。ナンダコリャ。頭がクラクラするとか聞いたことあるけど、ただ煙たいだけじゃないか。結局わけのわからんうちに捨ててしまいました。

 山本の父は3年前にガンで亡くなりました。死んだ後病院で解剖してもらった写真を見てギョッとしました。肺の一面に黒い斑点がついています。父は20年以上前にタバコをやめていたのですが、それまでヘビースモーカーだったらしく、そのあとが死ぬまで残っていたわけです。
 タバコの害については知っていると思いますが、何より肺を汚し肺ガンを始め病気のもとになります。お母さんがタバコを吸うと、おなかの中の子どもは酸素欠乏の状態になり、発育が悪くなるといわれています。自分がタバコを吸わなくても、同じ部屋でタバコを吸っている人がいると、その人の7分の1のニコチン(タバコの成分・発ガン物質)を吸い込むと言われています。
 タバコのコマーシャルを見ていると、最後に「健康のため吸いすぎには注意しましょう」という表示が出ますが、吸いすぎなくても健康に悪いことははっきりしているのです。

 学校の教師をしていたとき、タバコを吸っていた高校生と話をしたことがあります。
 「そんなに吸いたいんか?」
 「ボーッとして、いやなこととか忘れられるし……」
 「体に悪いねんで」
 「絶対病気になるって決まってるわけじゃないでしょ」
 とりつくしまもなかったのは、こちらの言い方が悪かったのかもしれないけれど、いつものあどけない顔とはまるで別人のようにタバコをくわえている姿は、とても痛々しかった。ストレスに耐えかねてタバコに逃げているようにも見えました。

 タバコを吸っている人がかっこいいとか言う人もいますが、自分を大事にしていない、しかも人に迷惑をかけていることがカッコイイとは、山本にはどうしても思えません。「タバコの味がわからんなんて、人生の不幸だなア」という人がいたら、わかってしまった人の方が不幸だと言います。
 タバコは生物学的に言えば習慣性を持つ一種の"麻薬"ですから、体がなじんでしまった大人がやめるのはかなり難しいし、オレの勝手だろと言われたら半分はそうだと思います。でもみんなはこれからの未来がある人たちです。これから先に誘惑があっても、吸って欲しくありません。しんどいことがあっても、タバコに逃げないような人になって欲しいと思います。(1996/10/8)


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