遠き同志への手紙


 ○○先生
 お元気ですか。この間は短い時間でしたがお話しできてうれしかったです。
 相変わらずお忙しそうですね。こちらは最近体力の衰えを実感しています。運動不足のせいでしょうか。(……最近生徒に『年やね』と言われ落ち込むことも多いのですが)
 来年から先生の学校で始まる教養講座『楽しくわかる化学実験』楽しみです。先日送った分析実験の本は役に立ちそうでしょうか。山本は大学で公害問題とか環境問題とかの勉強をかじっていて、子どもと一緒にそういうことに関われたらいいなと思っていました。こうなってみると、あの学校をやめなければよかったのか? などと余計なことを考えてしまいます。一度くらいお手伝いに行きたいです。またいい資料があったら送ります。今までの、教科書を使った当たり前の授業から抜け出して、先生と生徒の両方にとって楽しい授業ができたらいいですね。
 本当はわざわざ「教養講座」などと銘をうつのではなく、中1の最初からの授業1つ1つを、子どもにとってどんな意味があるのかという視点から見直してみるべきだと思います。教える中味を削ってでも、本当に生徒のためになる授業をつくっていってほしい。自分が賢くなることの喜び、理屈で考えることの面白さ、世の中がよく見えるようになることの感動、自分自身を表現できることの大切さをみんながわかってほしい。校則にしても教師が決めるのではなく、生徒が自分の意志で決めて自分の意志で守るという自覚を持ってほしい。極論すれば、自分が参加できない場所で決められたルールは守らなくてもいいのが民主主義だと思います(幼稚園ではないのだから)。そんな方向で学校や塾が変わっていけるでしょうか…… 塾の教師として、あの学校にどれだけの期待をしていいのか、興味津々です。

 昔と比べれば、学校に行かないことが悪いとも思われなくなっていて、不登校の人も増えています。実際に学校に通っていても、そこに友だち以外の何かを期待してくる生徒はどれだけいるのでしょうか? 子どもと話していると、学校に行っているかどうかと関係なしに(不登校でも塾に来ている子もいます)、「心理的不登校志望」がかなりいるような気がします。
 山本が夢に描くのは、オトナからの押しつけでない、子どもが自ら望んで勉強したくなるような授業です。テストのためとか入試があるからではなくて、わかる面白さ、世の中を見る・世の中と関わる力をつけるために、自分の意志で授業や教師を選び取れる学校です。
 まして塾なら、もっと生徒の意志を尊重するべきでしょう。学力別クラスは本質的によくないと思うけれど、それが仕方ないならば、生徒本人にクラスや教師を選ぶ権利を与えるべきでしょう。中3でも必要があれば中1の授業を受ければいいし、高1の人が中2の人を教える場所があってもいいでしょう。教師との相性もあるのだから、教師も生徒の方で選べるようにするべきでしょう。その代わり生徒に自分で決めさせることを徹底し、決めたことに対して責任を自覚させ、失敗したときにはとがめるのではなく、失敗したことを認めた上でやり直しの機会を与えることができればいいと思うのです。生徒にもっと意思表示の機会を与え、自分の意見・考えをはっきり表現してもらう訓練も必要です。
 自分の意志で勉強に取り組むことができなければ、入試の結果が出せたとしても、最終的な自分との勝負に勝つことはできないでしょう。現場の教師が、長い先を見通した上で、生徒のための最善を考えられるような塾であってほしいです。
 年を追って子どもの考える力がなくなってきているように思います。当たり前のはずのことができない。自分のことを真剣に考えることも、自分の気持ちをわかりやすく表現する訓練もできていない。目先のテストに振り回されてヘトヘトになり、結局学校や塾の勉強で得るものが「点数」以外になくて、本当の学ぶ力を養う視点から見ると、知識を押しつけられない分だけ、学校に行かない方がマシ。遊びさえ手間のかからない、目先のことでしか考えられない。
 何であんなに疲れ果ててしまうのでしょうか。色々な場所や人に責任があると思いますが、どうしたら抜け出せるのか、子どもが自分自身を取り戻すために何ができるのか、何をするべきではないのか、真剣に考えなければならないときなのでしょう。……そう思いながら、自分の日々していることを振り返ると、いい加減力のなさにイヤになります。まずは自分でできることを、少しでも何とかしなくちゃね。

 とにかくお互い前向きにがんばりましょう。グチはいつでも聞きます(たまには聞いてください)。違う立場・違う職場にいるからこそ、お互いに見えることもあるでしょう。自分自身がマンネリに陥らないためにも、別の世界に触れておかなければならないと思うのです。これからもよろしく。(1997/12/5)


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