炎の恐怖〜ダイオキシンについて〜


 中2の「燃焼」の授業で、ロウソクを燃やす話をしています。ロウソクや紙や木・生ゴミなど「燃えるゴミ」(有機物)を燃やすと、普通水と二酸化炭素ができます。
 しかし実際にものを燃やした時に出るのは、それだけではありません。高熱で徹底的に燃やせば(完全燃焼という)ほとんど水や二酸化炭素など無害な物質になるのですが、燃やす温度が低かったり金属が混じっていたりすると、他の物質ができてしまうことがあります。その中に「ダイオキシン」というとても有毒な物質があります。
 ダイオキシンは、たとえばビニールやプラスチック、一部の紙やインクなど「塩素」を含むものを、300度くらいの温度で燃やした時にできます。服の防虫剤に使われているパラジクロロベンゼンを燃焼させても、ダイオキシンができます。燃やすということは、中学校の理科で習うよりもはるかに多くの種類の物質をつくり出す、複雑な反応なのです。  大規模なゴミ焼却場では普通900度くらいまで温度を上げるのであまりダイオキシンは出ないのですが、学校や病院などの小さい焼却炉ではダイオキシンができやすいのです。
 もうひとつダイオキシンが出てくるのは、除草剤です。20年ほど前まで日本でも使われていた、雑草を枯れさせる薬の中にダイオキシンが混ざっていて、その草を食べた牛やニワトリの体にダイオキシンが入っています。ベトナム戦争でアメリカが大量の枯れ葉剤をまき、ベトナムに多くの奇形児(ベトちゃん・ドクちゃんが有名)が生まれました。アメリカ軍の兵士やその子どもにも被害が出ています。
 ダイオキシンは急性毒性(すぐに体に害が出る)でサリンの2倍・青酸カリの1000倍の毒性を持ち、甲状腺という栄養吸収に関わる器官のはたらきをとめ、食べても栄養が体に入ってこない状態になります。体重50kgの人なら、5mg(0.05g;1円玉1枚が1gなので、1円玉の20分の1の重さ)で命に関わります。肝臓や脾臓(ひぞう;古くなった血液をつくりなおすところ)もおかされ、細菌に対する抵抗力が落ちたり血液が減ったりします。精巣や卵巣など生殖腺にも影響があり、精子が減ったり子宮に炎症が起こって子どもができにくくなったり、生まれてきた子どもに障害ができたりします。発ガン性があることも確かめられています。ダイオキシンは油に溶けやすく、人間の体内では脂肪の多い部分によくたまり、その部分が肉腫(ガンの一種)になったりします。
 みんなにできることは「ゴミをなるべく出さないこと」「食べ物に気をつけること」「より深く勉強すること」です。ゴミになりそうなものは買わないこと(お金も貯まります)、スーパーなどでビニール袋をもらわないこと、プラスチックよりガラスの容器のものを買う、リサイクルを心がける。今、1人が1日で出すゴミを処分するために100円くらい使われていますが、ゴミが減ればその分のお金が浮いて、学校の施設とかみんなの役に立つものにお金が回せることにもなります。
 食べ物では、油分の多い魚・肉・牛乳などが要注意です。魚介類は汚れた海でとれたものがそのまま危ないので、たとえば日本の近海でとれたものには気をつける必要があります(サバ・イワシ・アジ・スズキ・アナゴ・ワタリガニ・シジミなど)。遠洋でとれるサンマ・カツオ・マグロやタコ・イカ・エビ・タイ・ワタリガニ以外のカニ・シジミ以外の貝などが比較的ダイオキシンを含まないものです。肉では牛肉とトリ肉に多く含まれています。卵やバター・チーズなど乳製品も要注意です。野菜でもホウレンソウなど色の濃い葉の野菜は土中のダイオキシンを吸収しやすいので、汚染の高い産地のものはできれば避けたい。ダイオキシンは土の中にたくさん入っているので、野菜についた土はよく洗い流すこと、土に触れている皮をきちんとむくこと。
 野菜の中に入っている植物繊維(セルロース)を多く食べると、胃腸に残っているダイオキシンを「掃除」してくれるので、野菜や穀物を多く食べると効果的です。
 ……これだけ読めばわかるでしょうが、完全にダイオキシンをとらずにすむ方法はありません。空気中にも水道水にも土にも、少しずつですがダイオキシンや他の毒物が入っているのは、残念ながら事実です。みんなに一番してほしいのは「わからない」と言って現実から逃げたり、「どうしようもない」と言ってあきらめたりするのではなく、身の回りの色々なものについて勉強し、毒物やその元をなくしていく方法を考えることです。難しいですが、自分の命は自分で守る、そのための知識と考える力を身につける、ということを考えてください。
 参考;「ダイオキシン」宮田秀明著(枚方の大学の先生です)、岩波新書、1999年(1999/6/8)


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