藤前干潟に行ってきました


 干潟という場所を知っていますか。海外沿いに泥がたまっている浅い場所で、潮が満ちると海に隠れ、潮が引くと泥地が出てくるようなところです。去年潮の流れが遮られた『ムツゴロウ』の諫早干潟は有名ですね。干潟はそれ自体は目立たない場所ですが、渡り鳥の休憩場所になったり、魚の産卵場所になったり、小さい生きものが水の中の汚れを食べることで水をきれいにするはたらきがある、水にとっても生きものにとっても(人間にとっても)大切な場所です。
 日本で諫早干潟に次いで広いのは、名古屋の藤前干潟です。ここをゴミで埋め立ててしまう計画があり、干潟を守る運動をしている人たちが「干潟祭り」というのをするので、日帰りで行ってきました。

 大阪を朝7時に出て新幹線で名古屋へ。地下鉄とバスを乗り継いで、小雨の降る中を10時過ぎにめざす干潟へ。堤防沿いに鈴なりの人が双眼鏡で鳥を見ていた。サギやらカモやらがエサを探しているのが見えた。日曜でもあり家族連れがたくさん。干潟の前にはゴミ焼却場があり、まわりには工場や波止場だらけで、とてもここに何百の渡り鳥が来るとは思えない。堤防からは岸の岩場へ降りてみると、フナムシやカニがガサガサ音を立てながら逃げていく。子どもたちは石をひっくり返してはカニを探すのに夢中。
 だんだん潮が引いてきて、みんなで干潟に出ることになった。Tシャツと短パンに着替え裸足になり、浅い水をかき分けながら沖の方へ歩いていく。泥はフワッとした感触で気持ちいい。小さい頃泥遊びをしたことを思い出した。すぐ目の前でシギの群れがエサをつまんでいたりする。でもところどころに空き缶やらプラスチックやらゴミがあってけっこう汚い。
 地元の高校の先生のつくった「アナジャコ採集器」を持ってさらに沖へ。アナジャコは泥に穴を掘って潜ってすんでいるエビの仲間で、干潟の生きものの中では一番大きい。水中の有機物(汚れ)を食べるという大切なはたらきをしているので、アナジャコの数についてはずっと調査をしているそうだ。フワフワした泥の上を200mほど沖へ歩くと、泥の上に直径4pくらいの穴がポツポツ見えてきた。これがアナジャコの巣穴だ。採集器の筒を穴に押し込み、引き抜いて筒の中の泥を外に出す。泥の中にアナジャコの掘った穴のあとが残っているが、肝心のアナジャコはなかなか見つからない。
 20回ほど筒を押し込んでいるうちにへばってきた。近くにいる子どもの方がやる気になって「ボクたちがやるー」といって替わってくれたが、それでも全然とれず。他の場所でとっているベテランの人も「今日は調子が悪いなあ、ちょっと寒くなってきたからかなぁ。(アナジャコは冬になると3m以上の穴の底に潜ってしまうらしい)」ちょっと休んでからもう1度チャレンジしても成果なし。
 1時間あまり泥だらけになって穴を掘りまくり、「最後にここを掘ろう」と子どもに言われて最後の1回を掘ったら、エビのようなものが出てきた。思わず小学生と一緒にやったー! とはしゃいでしまった。よく見ると、アナジャコではないが、やや小さい仲間のスナモグリというものだった。本命でなかったのは残念だが、とにかく穴掘りがムダでなかったのでほっとした。
 泥をかき分けて岸に戻り、海水で泥を洗い落として一息。片手で持てるくらいのゴミを拾った。せっかくだからみんなでゴミ拾いをすればいいのに。おせっかいかな?
 堤防の上では、メキシコの民族音楽の生演奏をしていた。地元では有名なグループだそうな。後で聞くと「少しでも(干潟祭りに)たくさんの人に来てもらえるように演奏しているのですが、最近は音楽とは関係なしにたくさん集まってくれます。」この日は結局500人くらい来ていたとのこと。そういえばテレビの取材も来ていた。
 祭りの本部のテントでパンフレットやらカレンダーやらを買っていると、横のテントで7才くらいの男の子が顕微鏡をのぞいて「これなーにー」と大声を出している。のぞいてみるとカニやゴカイの幼生がいた。教えていくと熱心にどんどん聞いてくる。別れ際に「顕微鏡を買ってもらってまた自分で色々見てごらん」と言ったら、早速お母さんにねだっていた。この子が将来研究者になる可能性は……あるのかな?
 帰りは足がギシギシ痛む棒のようになり、新幹線では熟睡した。日帰りでちょっと高くついたけど、まあよかったか。
 きっと昔の干潟は、子どもが遊ぶ"砂場"のような場所だったのだろう。こういう場所を開発から守るのに、「水をきれいにするから」「生きものを守るため」という理屈は確かにあるけれど、それよりも干潟が自分にとってかけがえのない大切な場所だと思えるのが一番大切なのではないかとも思えた。
 ちなみに大阪にも淀川に干潟があります。干潟の話はテレビや新聞でも出てくるので、興味があれば見てください。(藤前干潟を守る会のHPはこちら)(1998/9/9)


通信の一覧に戻る

最初に戻る

inserted by FC2 system inserted by FC2 system