うそつきが運命をにぎっている

 少し前のニュースになりますが、東京電力の福島原子力発電所で、原子炉の壁にひびが入っていたのに、国に報告していなかったことが問題になりました。
 原子炉の中身が外にもれないかどうかの検査をしたときに、安全基準よりたくさん外にもれていたため、その検査のデータを改竄(かいざん;わざとつくりかえる)していたこともわかりました。この発電所は1年間の運転停止処分を受けています。

 水力や火力の発電所では、あまりこういうニュースは聞かれません。原子力発電所が他の発電所と比べて大きな問題になるのは、理由があります。
 中学では原子力発電のしくみについては学びませんが、簡単に説明してみましょう。

 物質をつくっている一番もとになる粒子を「原子」といいます(中2で習う)。原子は、水素・酸素・鉄・金・ナトリウムなど、全部で100種類くらいあります。
 原子の中には、大きすぎるため不安定で、こわれて別の原子になっていくものがあります。ウラン(元素記号U)もその1つで、ある程度以上の量があると、自然にこわれてプルトニウムという別の原子になります(核分裂)。ウランがプルトニウムに変わるときには、放射線という光のようなものを熱と一緒に出します。放射線はレントゲン写真を撮るときにも使われるものですが、生物には有害です。細胞そのものをこわしたり、生きものの設計図である遺伝子を傷つけたりします。

 原子力発電所では、ウランがプルトニウムに変わる時に出る熱を使って水を沸騰させ、水が水蒸気になるときに体積が増えること(状態変化)を利用して発電機を回し、電気をつくります。熱と一緒に放射線が出ますが、その放射線が発電所の外に出ないように何重にも壁を作っています。またウランやプルトニウムなどの放射能(放射線を出す物質)が外に漏れるともっと大変なので、外部に放射能が出ていないかどうか、いつも測定しています。

 放射能が他の毒物と違うのは、放射線を出すのを止められないことと、非常に長い間放射線を出し続けることです。ウランから出る放射線の強さが半分になるのに45億年(地球の寿命と同じ!)、プルトニウムでは2万4000年です。また放射線は鉛などによってさえぎることができますが、放射性物質が大気中に出てしまうと、吸い込んだり食べ物から取り込んだりするのを防げなくなります。

 16年前、ソ連(今のロシア)のチェルノブイリ原子力発電所で大きな事故が起こりました。原子炉が暴走して吹き飛び、大量の放射能がまき散らされました。放射能は風に乗って広がり、ヨーロッパで作られた小麦粉からも放射能が検出されました。300km以上離れた場所も放射能で汚染されました。今でもチェルノブイリ周辺に住んでいる人には、甲状腺ガンなど放射能による病気が多く見られます。

 もしせまい日本でチェルノブイリのような事故が起きたら、大変です。上の図は、敦賀にある原子力発電所が大事故を起こした場合に放射能がどこまで広がるかを表したもので、ゆるい基準(小さい円)でも大阪や名古屋、きびしい=より安全な基準(大きい円)では東京や四国全部まで、人が住めなくなります。京都・大阪だけで600万以上の人がガンで亡くなるとも予想されています。日本が壊滅するといっても言い過ぎではないでしょう。

 地震の多い日本で本当に安全に原子力発電所を運転していけるのか、疑問に思っている人もたくさんいます。発電所の中で仕事をしている人の中には、放射能を浴びてガンなどで亡くなっていく人もいます。また何万年も放射線を出し続ける使用済み燃料をどう保存するのかも、まだはっきりと決まっていません。
 このような原子力発電所を運転する人たちは、大げさでなく「日本の運命」をにぎっていると言えるでしょう。そういう人たちがうそをついていたのです。
 壁にひびが入っていることがわかれば、運転を止めて修理しなければなりません。原子力発電所は1日運転を止めると1億円ソンをすると言われています。電力会社も商売ですから、利益を出そうとすれば、うそをついてでも運転を続けたいでしょう。
 しかし普通の人たちから見れば、このようなものを運転している人が"商売"でやっていて、うそもつきかねないというのでは、こわくてしかたがありません。今回の事件で東京電力の社長などが辞任しましたが、やめればすむ問題ではありません。どういう理由で、誰の指示でうそをついていたのか、これからどうやってうそをつかないようにしていくのか。そこをはっきりしないままこの事件を終わらせても、東京電力がうそつきでなくなるという保証はありません。もし本当に大事故が起こったら、たくさんの人が死ぬでしょう。誰も責任をとれなくなるのです。

 原子力発電所の問題は、みんなの問題でもあります。みんなの命を左右するもの、数千年先まで放射能が残るものとどうつきあっていくのか。電気を使う便利さと、命がどうなるかわからない不安が、背中合わせになっている今の生活をどうしていくのか。これは山本のようなおとなと、将来を背負っていくみんなが力を合わせて考えていかなければならないことです。テストの点数を気にするのもいいですが、こういうことも真剣に考えられるようになってほしいです。(2002/12/9)


 先週の「大騒ぎ」

   中1で地震の授業をしました。
   「この教室で今地震が起こったらどうする?」
   「机の下にかくれるーー」
   「よし、じゃあ練習してみよう。一、二、三!」
   いっせいにみんなが机の下に入りました。その間全部で5秒。
   Aさんがうまく入れなくて、いすの上でバタバタして、みんなで大笑い。
   このノリはさすがですね。(ほめているんですよ)
   今まで何回か冗談でこの話をしたことがありますが、本当にやったのは初めてです。
   でも冗談ではなく、何かあったときにどうするか考えておくことは大切です。
   あなたは5秒で机の下に入れますか?
   Aさんのことを笑っている場合ではありませんよーー。
 


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